『17才の帝国』全5回の物語に熱狂の予感 “経験”は人を腐敗させるものなのか

『17才の帝国』全5回の物語に熱狂の予感

 土曜ドラマ『17才の帝国』(NHK総合)の冒頭は、AIの光が、山田杏奈演じるヒロイン・サチの顔を赤く染めるところから始まった。その目に浮かぶ歓喜の表情。それが何を意味しているのか。彼女と、彼女が憧れてやまない、神尾楓珠演じる少年・真木亜蘭と仲間たちが作ろうとする、理想に満ちた「帝国」は、一見完璧だからこそ、どこか怖くもある。

 『NHKワールドJAPAN』を通じて、土曜ドラマ枠が世界に発信される第1弾となるこの作品。近未来の日本を舞台に、様々な才能が結集し、「AI」と「SF」、「政治」と「青春」を描く。注目すべきは、キャスト・スタッフ共に完璧な布陣である。数々の名作NHKドラマを手掛けてきた訓覇圭が制作統括、『カルテット』(TBS系)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)を手掛けた佐野亜裕美がプロデューサー。音楽は『大豆田とわ子と三人の元夫』を手掛けた坂東祐大を中心とした4名の作曲家が担当した。演出は『きれいのくに』の西村武五郎、桑野智宏。そして、脚本は『けいおん!』など数々のヒットアニメを手掛けてきた吉田玲子。近年では『映画 聲の形』『平家物語』が印象的だ。

 また、本作の肝は、優れた俳優たちが織りなす、「子供対大人」の興味深い構図だ。『彼女が好きなものは』の記憶も新しい神尾楓珠、山田杏奈。『サマーフィルムにのって』『愛なのに』など、好演続きの河合優実。多くのドラマ・映画で活躍する望月歩ら、気鋭の若手俳優陣。そして、そんな彼らを支え、時に対立し、壁となる立場になるのだろう、大人側の苦悩を滲ませる星野源、染谷将太。さらにその上で迫力のある佇まいを見せる柄本明、田中泯。

 本作が描く202X年の日本は、超高齢化社会となり、深い閉塞感に包まれ、「サンセット・ジャパン」と揶揄されている。状況を打破するために総理・鷲田(柄本明)が立ち上げたのが「Utopi-AI」、通称UA(ウーア)構想だった。全国からリーダーをAIで選抜し、退廃した地方都市の統治を担わせる。そして、その独立特別行政区「ウーア」の総理大臣として選ばれた17才の少年が、真木亜蘭であり、官僚の20代前後の若者たちだ。

「私は一つの痛切な願いを持っている。私がこの世に生まれたがゆえに、世の中が少しだけよくなること。そう認めてもらえることが、私の生きがいでもある」

 序盤に引用されるリンカーンの言葉だ。それは、「ウーア」の総理大臣である真木だけでなく、サチにも、サチの弟・樹介(加藤憲史郎)にも当てはまる言葉でもある。前述したように、サチの目に浮かぶ「歓喜」からこのドラマは始まる。そのまま物語はその時点から半年前に遡り、真木がプロジェクトの参加メンバーに選ばれるように夢中で祈るサチの姿が示される。「彼は理想の国を作ることができる人」だから彼女は自分にできないことを、「世の中をどうにかしたい」という思いを、彼に託した。そして、彼女は真木によって「認められ」総理補佐官として「ウーア」を統治する一員となる。

 いじめが原因で学校に行けなくなった樹介は、家族で「ウーア」に移住し、閣僚会議を視聴し、参加する。「町全体が議会になる」とされたその空間で、自分の思いが「共感値」として可視化されたことに喜び、自身も参画していることに目を輝かせる。

 第1話の中で、「ウーア」という箱庭を通して、理想の政治の在り方のモデルケースが様々に呈示されたが、何より大きいのはこの点だろう。ここには、「世の中を少しでもよくしたい」という強い思いと、その思いを託せる人物がいて、人々が互いに認め合える関係性が構築されようとしている。つまり、ここには理想の民主主義の形がある。

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