日本アカデミー賞優秀アニメーション賞5作品で振り返る、日本アニメ映画の現在地

日本アカデミー賞アニメ5作品を振り返る

 日本映画の祭典ともいえる日本アカデミー賞。その公式サイトを見ると「映画芸術、技術、科学の向上発展のために日本アカデミー賞を設け、その年度の該当者に栄誉を与える」と記されている。第45回目となる今回の日本アカデミー賞の優秀アニメーション賞に選ばれた5作品が、個性的な制作スタジオという観点からも、日本中の話題をさらった注目作という観点からも、ほどよいバランスのアニメ映画が並んでいる。ここでそれぞれの作品の特徴と魅力を振り返ってみたい。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

 日本のみならず世界各国で大きなムーブメントを巻き起こしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。その長き歴史に監督の庵野秀明自身が決着をつける完結編ということもあって、制作発表時から注目度が高かった『シン・エヴァ』だが、幾度かの公開延期に見舞われたにもかかわらず、上映は長期のロングランとなり興行収入102.8億円の記録を打ち立てた。

 ポスターに書かれた「さらば、全てのエヴァンゲリオン」のコピー通り、90年代のテレビアニメ版と劇場版も肯定、内包した上で、2007年以降に始まった新劇場版4部作の最後を見事に締めくくった。敵味方とも圧倒的な物量でぶつかり合う映像のカタルシスと、それぞれの登場人物の行方は20年以上もエヴァを追い続けた人の胸に様々な想いを刻み込んだことだろう。

『漁港の肉子ちゃん』

『漁港の肉子ちゃん』(c)2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会

 西加奈子の同名小説のアニメ化作品だが、この小説に惚れ込んだ明石家さんまが、作者に映像化のアプローチをしたのが企画の発端。『映画ドラえもん』シリーズで有名な渡辺歩監督のもと、『鉄コン筋クリート』、『ベルセルク 黄金時代篇』など尖った映像作りで知られるSTUDIO 4℃がアニメ制作を手がけた。

 この映画では登場人物のバックボーンを説明的な台詞で語ったりせず、会話の中の微妙なニュアンスや映像を通して観客に分からせる演出方が多々取られているため、小さな子どもには読み取りが少々難しい箇所があるかも知れない。が、それでも映画が終わるころには苦労をものともせずポジティブに生きる肉子ちゃんのバイタリティと、娘のキクコの純情に誰もが心暖まりながら劇場を後にすることができるはずだ。

『竜とそばかすの姫』

『竜とそばかすの姫』(c)2021 スタジオ地図

 本作は、細田守監督が自らの映画制作のために立ち上げたスタジオ地図による、4本目の劇場用アニメだ。『サマーウォーズ』同様に、オフライン上の人間同士の関わり合いと、オンライン上のアバター同士の交流が交互に描かれ、やがてそれらは交錯して一組の兄弟の悲しい現実へと繋がって行く。その過程で、河川事故で母を亡くした過去を持つ主人公のすずが、閉ざされていた”歌を唄う心”を開放する姿が巧みなストーリーテリングで紡がれる。

 映画公開前に複数のプロモーションパートナーが、洪水のように流した大量の宣伝用スポットに辟易した人も多いだろうが、作品自体は名も知らぬ兄弟を窮地から救うことで主人公の心もまた救済される、とても繊細でミニマムなストーリーである。公開時に敬遠してしまった人も機会があれば触れていただきたい。

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