山田尚子の変わらない作家性が刻まれた『平家物語』 サイエンスSARUとの化学反応も

山田尚子の作家性が刻まれた『平家物語』

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」

 日本人の誰もが学校で覚えたこのフレーズをアニメにしたらどうなるだろうか。故・高畑勲なども試みようとしていたとされる『平家物語』が、地上波での放送を開始した。今回は先行配信された『平家物語』から、今作の見どころを中心に山田尚子監督の変化と変わらなかった作家性について考えていきたい。

 『平家物語』の監督を務めた山田尚子は、いま最も注目すべきアニメ監督の1人であることは疑いようがない。長く在籍した京都アニメーションでは『けいおん!』シリーズが大ヒットを記録、2010年ごろに流行した日常系アニメの代表的作品の1つともなり、まさしく時代を作った1人だ。

 『映画 聲の形』では、障がいとコミュニケーションの問題を正面から捉え話題を集め、日本アカデミー賞の優秀アニメーション作品賞を受賞する。2018年の『リズと青い鳥』では、アニメ表現が苦手とする日常芝居に取り組み、セリフがなくても観客に伝わる芝居をアニメで描き切った。それらの挑戦的な試みが評価され、実験的作品に与えられる毎日映画コンクールの大藤信郎賞に輝くなど、作品の内容や賞レースからしても実績は十分だ。

 その山田監督が京都アニメーションを離れてテレビアニメを制作すると発表された際は、驚きの声があがった。京都アニメーションの作風は日常表現や芝居を重要視し、ギャグなどを挟みながらも写実的な表現を行うスタジオだ。一方で、今回『平家物語』を制作したサイエンスSARUは湯浅政明監督が中心となって、独特の動きや抽象的な背景表現などでアニメの持つ快楽性を追求するスタジオだ。あまりにも作風の異なるスタジオでの挑戦、しかも歴史的な古典への挑戦ということもあり、どのような作品になるのか心配する声が多かったのだ。

 しかし、その懸念は無用のものとなった、といったら、まだ放送開始直後にもかかわらず気が早すぎるだろうか。おそらく『平家物語』は絶賛をもって迎えられるであろうし、実際に先行配信の視聴者の感想では、高い評価が相次いでいる。もちろん平家物語という歴史的な評価が固まった作品を基にしていること、そして先行配信を観るほどの山田尚子ファン、アニメファンが中心ということもあるだろう。

 今回の挑戦で見えてきたのは、スタジオが変わって変化していく部分と、そしてそれでも変化しなかった部分だ。この変化しなかったものこそが監督としての山田尚子の作風として確立されたものではないだろうか。

 まずは変化したものについて述べていくと、アニメ表現、特に動きやキャラクターデザインがあげられる。京都アニメーションは、“萌え”を重視しながらも、リアルテイストのキャラクターデザインであり、動きも現実の人間に即したものだった。

 一方で『平家物語』では、キャラクターデザインが丸を多用しながらも特徴を捉えた造形をしており、日本人形のような愛らしさを備えている。そして動きは、時には主人公のびわが猫のような仕草をするなど、可愛らしさとコミカルさを兼ね備えた動きが随所に見られている。これらはサイエンスSARUが元来持っていた魅力が発揮されており、楽しい化学反応となった。

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