『孤独のグルメ』が教えてくれた変わらないための変わる努力 大晦日に五郎さんに会える喜び

『孤独のグルメ』大晦日に松重豊に会える喜び

 今年も、大晦日に『孤独のグルメ』(テレビ東京)を観ることができる幸せを噛み締めている。12月31日夜10時から、松重豊主演の人気シリーズ『孤独のグルメ』の大晦日スペシャルが放送される。大晦日スペシャルも5年連続とのこと、恒例行事となりつつある。しかも今年はなんと、京都、兵庫、三重、静岡、東京を、松重演じる井之頭五郎が車で横断するロードムービー形式ということで、美味しさだけでなくロマンも溢れた至極の90分になりそうだ。

『孤独のグルメ』の飲食店へのリスペクトと愛

 2021年7月~9月放送のシリーズでSeason9となった『孤独のグルメ』。約10年の歳月を経た王道ドラマは、何があっても「変わらない面白さ」を提供するために、変わり続けてきたドラマであるように思う。特にSeason9がそれまでと大きく違うのは、言うまでもなく、描かれている現在が「コロナ禍」にあるということ。

 新型コロナウイルスによる感染対策により、マスク生活が余儀なくされ、多くの飲食店が苦境に立たされ、食べる側としても、飲食店に気軽に立ち寄ることが難しくなった。他のテレビドラマであったら、コロナ禍を表面的には描くことなく作品を作ることは可能だが、グルメドキュメンタリードラマとなるとそうはいかない。飛沫防止のパーテーションや感染対策のアルコールが設置された店内の様子だけでなく、五郎が営業先で出会う人々や、店員とのやり取りも全員マスクのまま、水分補給をする時だけ素顔を垣間見ることができるというリアルな描き方も新鮮で興味深かった。

 その素顔を垣間見ることしかできない、主に声を楽しむ役柄を、りょうや磯野貴理子、三宅裕司、渡辺大知、銀粉蝶といった味のある俳優たちが演じているのも、作品の贅沢すぎるお楽しみポイントである。また、五郎がこれまで行ってきた「一人で店に立ち寄り、心の中では饒舌に語りつつ、表面的には黙々と食べる行為」は、「黙食」「独り飯」と言われ、コロナ禍の現在、推奨されると共に、再注目・再評価されている。『孤独のグルメ』は時代の先取りだったとも言えるのである。

 五郎が訪れる店自体も、東京に集中するのではなく、神奈川、静岡、群馬、福島、栃木と各地を回り、家族経営などの小さな店、昔ながらのドライブイン、ファミリーレストランなど、地域に根付いた味わい深い店を選んでいたのが印象的だった。また、静岡県賀茂郡河津町の生ワサビ付わさび丼(Season3で登場)など、以前行った店の再来店の場面も目立った。

 豊島区東長崎の「生姜焼き目玉丼の店」(Season1で登場)に立ち寄ろうとして、「今は茨城県鹿嶋市に戻って、親子3人で食堂をやっている」と通りすがりの人に教えてもらう第6話や、江戸川区京成小岩の「じゃがとろと魚のスープ」(Season2で登場)がもう一度食べたくて立ち寄るも、時短営業のために開いておらず、「営業再開」「テイクアウト」といった店先の手書きの文字を見つめ、「また来ます」と一礼する第7話など、五郎並びに『孤独のグルメ』チームの飲食店へのリスペクトと愛が詰まった場面が多く見受けられた。有り余る飲食店への愛は、五郎の食べっぷりにも表れていて、「あのお客さん、胃袋いくつあるのかねえ」と第5話の大将(綾田俊樹)が呟く場面があったように、今まで以上に片っ端から食べていて、五郎だけでなく、演じる松重豊の胃袋の底知れなさに毎度ビックリしてしまうほどである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる