国外は『スパイダーマン』、国内は『呪術廻戦』 本格的な一強多弱時代がやってきた

本格的な一強多弱時代がやってきた

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 先週末の動員は『マトリックス レザレクションズ』が土日2日間で動員18万6000人、興収3億円をあげ初登場1位を獲得した。初日から3日間の累計では動員27万6265人、興収4億3917万3030円。1作目の『マトリックス』が公開されたのは22年前、まだ20世紀の1999年。前作にあたる『マトリックス レボリューションズ』が公開されたのも18年前の2003年と、リブートではない正式な続編としては異例の間隔が開いた作品となったわけだが、なかなか渋い出足と言わざるを得ないだろう。もちろん、当時の日本における洋画興行の状況と現在との違いは考慮すべきだが、なにしろこれまでの3部作の最終興収は公開順に50億円、110億円、67億円という凄まじい記録を残しているシリーズだ。一転して、今回のオープニング成績から想定される最終興収の上限は20億円前後といったところだろうか。

 『マトリックス レザレクションズ』に関しては、その公開タイミングの設定について触れないわけにはいかない。先週末に世界各国で公開されて、クリスマスシーズンの作品として競合作となるはずだった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は日本では公開が3週遅れに。一方で、『マトリックス レザレクション』は海外の主要国よりも1週間早い日本先行公開。まるで日本でだけソニーがワーナーに「敵に塩を送る」ようなかたちとなったわけだが、今回の『マトリックス レザレクションズ』が単純にスケールアップを図ったタイプの続編ではないとはいえ、その甲斐はあまりなかったのではないかと言わざるを得ない。今週末には今回の『マトリックス レザレクションズ』や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、さらには直前で公開が延期された『ウエスト・サイド・ストーリー』の日本公開日の設定にも影響を及ぼしたに違いない『劇場版 呪術廻戦 0』の公開が控えている。『劇場版 呪術廻戦 0』一色となるに違いない年末年始の映画興行で、果たして『マトリックス レザレクションズ』はどれほどの存在感を示すことができるだろうか?

 言うまでもなく映画の配給や宣伝は「ビジネス」なので、そこで「強い作品がある時期を避ける」という判断が働くのは当然のことだ。特に音楽などと違って映画の場合、有力作品によって限られた数の上映スクリーンの奪い合いになり、中でもIMAXなどのラージフォーマット上映に関しては、作品によっては本来確保されるべき最低限の上映回数を確保できないというシビアな現実もある。しかし、そもそもサマーシーズンやクリスマスシーズンに有力作の公開が重なるのは当然のことで、これまで何十年も映画興行はその中で競争を繰り広げてきた。では、ここにきて新たに浮上している問題は何なのか? それは「強い作品があまりにも強すぎる」ことだ。

 昨年以降、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を筆頭に、1位の作品とそれ以下の作品の数字の格差が広がっていることは本コラムでも度々指摘してきた。その背景としては、コロナ禍、配信シフト、邦高洋低といったさまざまなトピックがあったわけだが、結局のところそれは日本国内の問題ではなく、人々がソーシャルメディアを中心とするインターネット「だけ」で情報を収集するようになった時代の必然であったことが明らかになりつつある。先週末北米で公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が週末興収全体の92%を占めて、同時期に公開された作品がほぼ全滅という報道(参考:https://www.indiewire.com/2021/12/spider-man-no-way-home-253-million-changes-movie-business-1234686850/)を前に、自分のような立場から映画のために今後一体何ができるのか(この連載もインターネット上の情報の一つだが)、この年末年始はじっくりと考えたい。

■公開情報
『マトリックス レザレクションズ』
全国公開中
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカー・チョープラー、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
配給:ワーナー・ブラザース
(c)2021 WARNER BROS. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:matrix-movie.jp
公式Twitter:@matrix_movieJP

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