極めて良質なアメリカ映画 『Our Friend/アワー・フレンド』に感じた深い友愛の可能性

『アワー・フレンド』にみる深い友愛の可能性

 ややシニカルな視座を絡めるなら、本作には恋愛偏差の問題があると言えるだろう。男ふたりのうち、初期設定としてはマットが「モテ」寄り、デインが「非モテ」寄り。後者は「いい人」なんだけど、恋愛対象には上がってきにくい、というスペックの持ち主として登場する。

 能力の高いジャーナリストであるマットは自己実現至上主義者。最初は地元アラバマの新聞記者をやっている。だけどNYタイムズから連絡があって、世界中の紛争地域を取材して回る存在にもなる。で、のちには映画『Our Friend/アワー・フレンド』の原作者にもなる(笑)。

 対してデインはスタンダップコメディアンになりたいという夢を持ちつつ、大胆な勝負を仕掛けるわけでもなく、長らくアウトドア・スポーツ洋品店「レッド・ビアーズ・アウトフィッター」の店員として働いている。だから「マット基準」でいうと、デインは「成功していない男」という位置づけにもなる。

 当面はデイン劣勢である。だがニコルが病に倒れ、様相は逆転する。「家庭人」あるいは「父親」としての才能は、デインのほうが圧倒的に上であった。マットとニコルの娘ふたりは優しく親しみやすいデインになつく。一方でパパのマットは、ずっと家にいないくせに、帰ってきたら偉そうに威張りちらす。面倒臭いモラハラ親父扱いである。

 ある種、この映画は「劣勢」のステージから、デインという男性の素晴らしさを紹介していく展開という風にも見えるかなと思う。結局は「あなたはマット派? デイン派?」と二択で競える位置にまで上がってくるのだ。

 デイン役のジェイソン・シーゲルは、1999年~2000年のNBCテレビシリーズ『フリークス学園』から続く精鋭コメディ軍団――「アパトー・ギャング」の異名でも知られるジャド・アパトー組の常連でもあり、日本の一般感覚とは比較にならぬほど本国での人気や知名度は高い。アメリカのデータや宣材などを検索したらすぐ判るが、実のところ本作の主演扱いはジェイソン・シーゲル、なのである。

 ちなみに形勢逆転と言えば、2016年の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』での名演以降、ベン・アフレックの弟という「じゃない方」から一躍のし上がったケイシー・アフレックは今回も本当に素晴らしい。いま「喪失を抱えた男」を演じさせたら天下一品――無骨な陰キャ俳優の滋味深さでは世界トップグループに入るだろう。

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