遠藤雄弥×津田寛治×松浦祐也『ONODA』鼎談 今の時代と繋がる小野田寛郎の生き様

『ONODA』で体験、小野田寛郎の生き様

小野田はジャングルのなかに自分の内面を見ていた

――遠藤さんは、津田さんが小野田を演じた後半パートをご覧になっていかがでしたか?

遠藤:(仲野)太賀くん演じる鈴木さんが登場する冒頭のシーンから、「うわー」って圧巻でした。ふたりのグルーブがすごくて。ただ一番驚いたのは、最後の方で、ひとりになった小野田さんが、やっと日本に帰れることになる、元上官の谷口さんと再会するシーンです。脚本で読んでいた感覚と、イッセー(尾形)さんが演じられた切り口が全く違っていて。それを津田さんがしっかり受けられていて、すごいシーンだと思いました。

津田:あそこはもうドキュメントみたいになってたもんね。

遠藤:津田さんもああしたイッセーさんのあの演技には驚かれたんじゃないですか? 監督の演出だったんですか?

津田:あれはイッセーさんご自身がああされたんです。イッセーさんだけが若い頃と歳を取ったときをまたがれてひとりで演じられてるんですよね。若い頃の谷口は、サングラスをして堂々として厳しくてかっこよかったのが、後半、あのご老体でわざわざルバング島まで来て疲れちゃって、すっかり弱弱しくなっている。その姿を小野田はぼ~っと夢の中の出来事のように見ている。イッセーさんはご自身の思うように演じられてました。ただ、僕は監督から結構言われました。クランクイン前にソルジャーワーキングでトレーナーから、「小野田さんは敬礼がすごくキレイな方なので」と言われて、ずっと練習してたんですけど、現場に行って敬礼をやったら、監督から「違う! そうじゃない!」と言われまして。

遠藤雄弥

遠藤:へえ。僕らのときはかなり自由にやらせてもらっていましたが、監督は前半と後半で演出法が全然違っていたらしいですね。

津田:うん。ひとりになった小野田の精神状態は夢か現かわからない状態になっている。だから敬礼も夢のなかのような感じなんだと。銃の扱いに関しても言われました。特に小塚がやられたときの銃の使い方。「そうじゃない」と。要は日本兵・小野田ではなく、人間・小野田をやりたかった。イッセーさんとのシーンも、やっと命令解除になるというのに、すごく淡々と流れていて、僕の表情もぼんやりしていて。でもそれがイチ観客として観たときに、すげーなと思うシーンになってましたね。

遠藤:本当にハッとしました。

津田:僕は後半ひとりだったし、ジャングルのなかでひとりポツンといながらずっと考えていることが多くて。ふと監督を見ると、監督もそうで。ひょっとして今見えてるジャングルは一緒なのかなと。若いパートだと人間関係の絆をすごく大事にしていたけれど、僕のパートでは、それよりももっと内面的なもの、イコール目の前にあるジャングルというか、ジャングルのなかに自分の内面を見ている小野田というひとりの人間を描きたいんだなと、監督を見ていても感じましたね。

松浦:最後のほうの津田さんがジャングルの大木に背を預けて佇んでいるカットを見たとき、鳥肌立ちましたもん。「やべー、穏やかじゃねえぞ」って。この表情は作為ではできないと思いましたね。ゾッとしました。

津田寛治

津田:でも最後のほうの小野田が効くのも、若い時の緊張感が相当あったからだから。

遠藤:全然違いますもんね。僕らは、人と絡んで生まれていくものが多かったけれど。

津田:劇的だったもんね。小塚と島田(カトウシンスケ)が殴り合うところもすごかった。本気じゃない?

松浦:最初、あて振りでやったんです。でも長回しで撮っていると、引きの画もあるし、当ててないのがばれちゃうんですよね。アクション部がいるわけでもないから、どうしようとなったときに、カトウ(シンスケ)さんが本気で当てていこうとおっしゃったんです。

遠藤:え、そうだったんですか?

松浦:いや、覚えてないけど。

津田:あはは! あれは松浦くんからだったって、もう遠藤くんがいろんな取材で言っちゃってるよ。

松浦:お前!

松浦祐也

遠藤:おふたりで話し合われているのを井之脇(海)くんと見てたんですけど、あのときおふたりとも具合が悪かったんですよね。満身創痍でやられていて。そんななかであんなシーンだし、あんまり何回もできるような芝居じゃないから、少ないテイクでやれるようにとお話しされてたのを見てました。

松浦:僕は普段、そういう芝居しないんで、ちょっと怖かったんですけど。

津田:うそつけ! まったくよく言うわ(苦笑)。でも本当に見てて怖かったよ。カトウくんは、ちゃんと喧嘩が弱い芝居をしていたし。かなり長いカットだったよね。

松浦:半分事故なんです。僕が最後、カトウさんがボコボコになってから決めセリフを言わなきゃいけなかったんですけど、途中でカトウさん、1発いいのが入っちゃって、本当に飛んじゃったんです。やべえと思って、必死でカトウさんの首を押さえてセリフを言おうとしたら、首を押さえた瞬間にカトウさんがパッと目を覚まして、また抵抗をはじめちゃって。

津田:あはは!

松浦:それでまたバンバン殴って黙らせるという。本番でも使われてるやつです。本当はもっと短いシーンだったはずです。

津田:でもおかげで素晴らしいシーンだったよ。観た人から、そこはすごかったって言われるもん。遠藤くんも本当に緊張感あるシーンばっかりだったよね。

遠藤:みなさんそうでしたが、毎日がクライマックスのようで。僕が自分たちのパートで特に印象深いのは、小塚と小野田がふたりきりになって、洞窟のなかで「まだ戦時中だよな」というのを、地図を見ながら思慮する芝居です。本当に長い芝居で、松浦さんとセリフが難しいねと。実際にはないワードも出てくるし。

津田:実際にないワードって?

遠藤:自分たちが仮想している状況を話しているので、連合軍とか、大東和共栄圏とか、現状の辻褄を合わせるために、いろいろ作ってるんですよね。そうした単語を言いながら、感情も出していくし、カメラワークも気にしなきゃいけないしで、大変でした。でもほかにも島田が死ぬところとか、たくさんあります。

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