『男女7人夏物語』『WATER BOYS』など、夏の青春ドラマは過去の遺物に?

「青春ドラマ」が消える夏

 こういった作りが成立したのは、日本が春夏秋冬という四季のはっきりとした国だったからだろう。特に夏は特別な季節という意識が日本人には強い。

 今年の夏に『竜とそばかすの姫』を発表し今も大ヒットしている細田守のアニメ映画は、出世作となった『時をかける少女』以降、夏のイメージを強く打ち出しており、夏といえば細田守というブランドイメージは確立されている。しかし細田が描く日本人が共有する「夏のイメージ」は、世界的な気候変動の中で失われつつある。もはやフィクションの中でしか描けない美しい世界となりつつある。

 そもそも、2020年からのコロナ禍の影響で、人が集まって何かをおこなうこと自体が難しくなっている。つまり、何気ない学園生活や夏のイベント自体が失われつつあるのだ。このまま、来年以降もコロナ禍が続くと「夏の青春ドラマ」自体が過去の遺物となってしまうのかもしれない。

 そう考えると悲しい気持ちになるが、逆にコロナ禍を舞台にしたリアルな青春ドラマも少しだが生まれつつある。たとえば、昨年の8月に放送された木皿泉脚本の『これっきりサマー』(NHK総合)は、コロナの影響で甲子園に行けなくなった男子高校生と夏フェスに行けなくなった女子高校生の夏を描いたコロナ禍を舞台にした青春ドラマだった。

 マスクをつけた二人が河川敷で自分たちの状況を語り合う姿を描いた本作は、ショートショートの作品で全5回をまとめても10分弱の短い物語である。しかし、岡田健史と南沙良という若手俳優二人の瑞々しい魅力を見事に引き出しており、2020年のコロナ禍の夏にしか成立しない一度きりの青春を逆説的な形で紡ぎ出すことに成功した稀有な作品となっていた。

 過去に存在した青春を、懐古的に再現する感傷的な作品も嫌いではないのだが、青春ドラマには今を生きる10代の若者に寄り添ったものであってほしい。『これっきりサマー』のような、コロナ禍の夏だからこそ可能な青春ドラマが増えることに期待している。

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