『おかえりモネ』は近年の朝ドラでは異色作? 主人公・百音のキャラクター造形を考える

『おかえりモネ』は近年の朝ドラでも異色作?

 テレビ局という慌ただしい環境から、仕事終わりにコインランドリーで流れる百音と菅波のゆっくりとした時間の流れ。それでも洗濯が終わるまでというタイムリミットが幾度となく設けられるユニークさ。また、亮(永瀬廉)をめぐる一連のシーンでの百音と未知(蒔田彩珠)の姉妹関係の揺れであったり、菅波や朝岡の過去。そうした目の前にいる人たちの心のうちに秘めた物語が丁寧に描かれながら、宇田川というひとつ屋根の下で暮らしているのに“見えない”住人の存在というアクセント。もちろん青年期を描くドラマとして欠かすことのできない、百音と菅波のラブストーリーも忘れてはならない。

 台風という自然の脅威の日に生まれた百音が、震災を通し自然災害を前に人間には何ができるのかという問いと正面から向き合うことがこのドラマの主たるテーマであり、つまり未来との対話である。もちろんそこにドラマとしてひとつのゴールは見出されることになるだろうが、完璧な正解など誰にもわかりようがない部分でもある。それでも漁業から林業、気象予測から医療に至るまで、人間が“生きていく”というファンダメンタルかつ漠然とした課題に対し、つねに過去のデータを基にしていくという理性的な部分が、感情的なもので抑揚を与えられるドラマ性の根幹にしっかりと存在している。それは誰かの生き様を描くことや、笑顔やら希望などというふんわりとした前向きさ以上にポジティブなものだ。

 予測という仮定に向き合ってこそ、初めて先へ進む道は拓ける。そして同時に、その拓けた道のなかで人間はつい結果や成果を求めてしまうという弱さにも対峙しなければならない。劇中で何度も登場する「あなたのおかげで」という言葉はある意味で、生産性やパフォーマンスの良さを求める現代の風潮と結びつくようにも思える。なにか得られることが伴わなければならないという恐れこそ、物質的に豊かになった現代がどこかに置き忘れて失ってしまったものではないか。

 今週の第19週を終えると、来週の第20週からは「気仙沼編」がスタートする。東京から故郷である気仙沼へ。そこにはきっと、タイトル通りの“おかえり”が待っているわけで、現在から未来へ進んでいく上で立ち返るべきものが何なのかを気付かせてくれるはずだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる