『おかえりモネ』百音と菅波に込められた幸福への祈り “命そのもの”を感じるセリフの数々

『おかえりモネ』百音と菅波に込められた祈り

特徴的なのは恋愛描写が本能的であること

 百音と菅波――とりわけ菅波は頭でっかちなところがあったが、百音はやがてただただこの手を掴みたいというような本能的な衝動に突き動かされることになる。『おかえりモネ』で特徴的なのは恋愛描写が本能的であることだ。

 百音の衝動のきっかけを作ったのは幼なじみの亮(永瀬廉)に一瞬の慰めを求められた時である(第79回)。理屈では百音にはほかに好きな人がいるようだとわかっているが、いろいろあって辛い気持ちをこの瞬間だけ慰めてもらいたいという本能。それを見て未知は「お姉ちゃんは正しいけど冷たいよ」と百音に言い、「私がそばにいる」と亮への本気度を再認識するのである。おそらく未知ならその場限りでも亮の想いを受け止めたであろう。また高校時代に一瞬つきあった明日美(恒松祐里)もそうだったのだろうと第79回からは感じられるようだ。

 具体的な言葉はほぼないまま、肉体の内側からじわじわとにじみ出る、正しいとか正しくないとかは関係ない“熱”のようなものの描写を朝15分間の朝ドラで描くことはなかなか難しい。が、百音と未知と亮と明日美と菅波から発せられる熱と鼓動は、春先いっせいに植物が芽吹いていく時のようなむせ返るような空気を作り出していた。その舞台が湿度の高い銭湯とコインランドリーであることもじつに隠喩的で……。

 ここで筆者が思い浮かべたのは、『おかえりモネと同じ安達奈緒子が脚本を書き、清原果耶が主演したNHKドラマ10『透明なゆりかご』の第2回である。ここには未知役の蒔田彩珠が出産した子を捨ててしまう高校生を演じていた。このときの清原演じる主人公のモノローグが印象的なのだ。

 今でもよくわからない。わたしのなかになにが生まれていたのか。菊田さんのなかになにが生まれていたのか。あの子のなかになにが生まれていたのか。その生まれたなにかに突き動かされてとった行動が正しい選択だったかどうかはわからない。でもそのとき感じたことに嘘はないと思う。わたしたちはたった一瞬でもおもったんだ。目の前の小さな命をたまらなく愛おしいって。
(『透明なゆりかご』第2回より)

  蒔田が演じたのは“あの子“と呼ばれる人物である。沖田×華の原作では主人公のモノローグが違っている。趣旨は同じだがドラマ版のほうが長く書かれている。

その生まれたなにかに突き動かされてとった行動が正しい選択だったかどうかはわからない。でもそのとき感じたことに嘘はないと思う。 

 その瞬間だけの真実は命そのもので、私たちはその積み重ねで生きている。守るべきものとは何か。その基準は役に立つとか立たないとかではなく、この世に瞬間瞬間煌めいている命――すなわちすべてである。

 亮や未知の衝動的な言動はそんな命そのものだと感じるのだ。『おかえりモネ』が優れているのは、原始から続いてきた生き物の生存本能のみに身を任せることなく、人類が積み重ねてきた叡智を駆使するところにもある。頭もカラダもフル稼働して私たちは生きていかねばならぬと『おかえりモネ』は手を差し伸べる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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