村上虹郎の全身から滲み出る気迫と悲哀 キャリア反映された『孤狼の血 LEVEL2』チンタ役

村上虹郎のキャリア反映された『孤狼の血』

 そんなチンタを演じている村上。今後、「村上虹郎といえばチンタ」となるのではないかと思うほどの適役ぶりだ。『2つ目の窓』(2014年)での鮮烈なデビュー以来、その時代を象徴する作品に重要な役どころで村上は登場してきた。あらゆるタイプの作家から愛されてきたと思う。筆者が個人的に印象に残っているのは、真利子哲也監督作『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)に、熊切和嘉監督の『武曲 MUKOKU』(2017年)、松永大司監督作『ハナレイ・ベイ』(2018年)、武正晴監督による『銃』。さらには、Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』に、天才剣士・沖田総司に扮した『るろうに剣心 最終章 The Beginning』などでの村上の姿だ。とくに『銃』で演じた西川トオルという役はその最たるもので、たまたま手にした銃に魅せられ、狂気の世界に陥っていくさまを丹念に演じ上げた村上は、こちらも「村上虹郎といえば西川トオル」というようなものを立ち上げていたと思う。

 さて、チンタを演じる村上は、刑事にとってもヤクザにとっても弟分的なキャラクターの愛らしさを、的確に演じ分けている。日岡は実際に彼にとって兄貴のような存在だが、ヤクザ連中はそうではない。連中の前では“弟分のようなキャラクターを演じるチンタ”を演じている。この差は大きく、明確に違う。チンタはスパイだ。この演技はバレてはならない。これを示していいのは観客に対してだけ。ヤクザ然として振る舞うこと、スパイであること、“とある報酬”に微かに瞳を輝かせるさま、“ある行動”に踏み込むさまーー村上がそれぞれに見せる表情やその背には、彼のこれまでの豊かなキャリアが申し分なく反映されていると思う。全身から滲み出る、気迫も悲哀も凄まじい。

 

 主人公の刑事や、ラスボス的存在である極悪人・上林と同じくらいに、このチンタという人物は重要だ。彼のキャラクターが弱いと、この映画の強度も落ちてしまうのは間違いないだろう。村上虹郎は、彼にしか表現し得ない、そしていまだからこそ表現できる演技をスクリーンに刻み、チンタという人物に鮮やかな血を通わせている。

■公開情報
『孤狼の血 LEVEL2』
全国公開中
出演:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤工、中村梅雀、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、小栗基裕、吉田鋼太郎
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:柚月裕子『孤狼の血』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
音楽:安川午朗
撮影:加藤航平
照明:川井稔
美術:今村力
録音:浦田和治
配給:東映
企画協力:KADOKAWA
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
公式サイト:https://korou.jp/
公式twitter:@Korounochi_2021
公式Instagram:@korounochi_movie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる