『TOKYO MER』が持つ医療ドラマの特質 ヒーローの失墜にどう立ち向かう?

『TOKYO MER』ヒーロー失墜の危機

 政治的な側面がドラマの重要な伏線になっていることも見逃せない。国と東京都の対立を背景に、赤塚の特命で設置されたMERは当初から政治的な争点をはらんでいた。ここに喜多見個人の履歴を重ねることで、二重の意味でMERは政治案件として扱われる。実在の人物や外国人労働者の問題、大使館の外交特権は医療と政治がせめぎ合う領域だ。ともすると単調になりがちな医療ドラマにサスペンス色を加えるとともに、守るべきものとしての生命と国益に代表されるその他の価値を対置することで、重層的にテーマに迫っている。医療と政治の間にまだまだ掘り下げるべき内容があることを明らかにした。

 国益か、それとも目の前の命か。「我々は目の前の命より、もっと大勢の人々の利益を守らなければならない」とは白金厚労大臣(渡辺真起子)の言葉。ただひたすら目の前の命を守ろうとした喜多見は、肉親の裏切りによって多くの人々から名指しで非難される。誰を助けたかによって、その人の正しさが決まると考えるのは、救うべき命とそうでない命があると認めることに等しい。本来、命に差別はないはずで、この明らかな矛盾を無視した時、すでに社会は崩壊へと一歩を踏み出している。公安の月島(稲森いずみ)が指摘する「自分の命をかけて他の誰かを守ってきた人間が、ある日突然、守ってきた人々から石を投げつけられる」状況である。

 ヒーローの失墜と、その混乱に乗じて動き出すテロリスト。MERは何を守るべきなのか? そし、それを守りきることはできるだろうか?

■放送情報
日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、小手伸也、 佐野勇斗、佐藤栞里、フォンチー、佐藤寛太、菜々緒、鶴見辰吾、橋本さとし、渡辺真起子、仲里依紗、石田ゆり子
脚本:黒岩勉
プロデューサー:武藤淳、渡辺良介、八木亜未
演出:松木彩、平野俊一
製作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TokyoMER_tbs/
公式Twitter:@tokyo_mer_tbs

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