『FGOソロモン』は作家の個性が光る一作に 拡大し続ける『Fate』シリーズの可能性

 一方、『FGO』シリーズの特徴としては、制作するアニメ会社が同じではなかったことにも着目したい。テレビアニメと最終章の劇場版はCloverWorks、6章の劇場版アニメの前編はProduction I.G,とその子会社のSIGNAL.MD、後編はProduction I.G,が担当している。では、その違いはどのような点で現れたのだろうか。最も顕著なのが『劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram』だ。 ufotableが撮影・仕上げ工程などを駆使した派手な映像表現を駆使したのと一変し、伍柏諭や砂小原巧、土上いつきなどのアニメーターの力量を発揮した、時に荒々しいまでの映像表現には圧倒される。

 『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』は戦闘シーンが多い作品だが、そのアクションを担当するメインアニメーターの個性を活かすような作りとなっており、全体を通してみても各々違うアニメーションの魅力を味わうことができる。

 一方、スマホゲームの原作アニメだからこその難点もある。特に最終章である『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』では、7章までの人気キャラクターや原作ゲームのキャラクターが勢揃いするのだが、そのキャラクター数が多すぎて、キャラクターの深堀りができない、活躍するアクションシーンがない、あるいは喋らないなどのモブとなってしまっている場面も見受けられた。

 だが、この挑戦自体は評価すべきものだろう。そもそも『Fate』シリーズは他作品を通して見ても、その印象は大きく異なる。『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』からは可愛らしい萌え描写の中に過酷な運命に立ち向かう魔法少女たちが魅力的に描かれる一方で、『衛宮さんちの今日のごはん』ではアクションや血生臭さのない、ほんわかとした普通の日常と食事風景が描かれている。『Fate/EXTRA Last Encore』は制作会社のシャフトの影響を強く受けた、幻想的な世界観などが描かれている。

 先に挙げた『機動戦士ガンダム』シリーズも基本はアニメ制作会社サンライズが制作しており、他社が大きく関わることは少ない。しかし、1つのイメージに囚われ続けることなく、各制作会社や監督などのクリエイター陣の個性により、『Fate』シリーズの枠組みはまた1つ広くなった。その挑戦を許してくれるシリーズというものもそこまで多くない。『Fate』並びに『FGO』シリーズがこの先、どのような展開を果たすのか注目していきたい。

■公開情報
『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』
全国公開中
声の出演:島崎信長(「崎」はたつさきが正式表記)、高橋李依、川澄綾子、鈴村健一、坂本真綾、杉田智和ほか
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
リードキャラクターデザイナー:武内崇
監督:赤井俊文
脚本原作:奈須きのこ
キャラクターデザイン:高瀬智章
サブキャラクターデザイン:岩崎将大・滝山真哲・川上大志
総作画監督:浜友里恵
クリーチャーデザイン:浅賀和行
プロップデザイン:道下康太・竹内志保
コンセプトアート:幸田和磨
テクニカルディレクター:宮原洋平
美術監督:薄井久代・平柳悟・臼井みなみ・合六弘(マカリア)
美術設定:塩澤良憲・竹内志保
色彩設計:中島和子
撮影監督:松井伸哉・佐久間悠也
3DCG:株式会社白組
3Dディレクター:吉田裕行
編集:三嶋章紀
音楽:芳賀敬太・川﨑龍
音響監督:岩浪美和
エンディングテーマ:愛弓「Eternity Blue」
制作:CloverWorks
配給:アニプレックス
(c)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
公式サイト:https://anime.fate-go.jp/ep7-tv/

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