“怖いだけじゃない”近年の台湾ホラー映画の魅力 『返校』『呪われの橋』などから紐解く

『返校』を軸に捉える台湾ホラーの魅力

『返校』と幽霊ホラー、時間軸を行き来する物語の見せ方

 社会派という映画のテーマを抜いて、『返校』の特徴としてもう一つ大きく取り上げるとすれば、それは物語の見せ方だ。本作では学校に閉じ込められた二人の生徒が、それぞれそこに至るまでの記憶を辿りながら、どうしてそうなったのか原因を解明していく。時間が行き来するだけに謎がさらに謎を呼ぶミステリーとしての見せ方、そして真実が見えてきたときのどんでん返し。単純に、ストーリーテリングがうまいのだ。これは、もっとシンプルな内容の台湾ホラー映画にも垣間見える。

 大学の有名な心霊スポットで肝試しをした生徒が死んだ事件を描く『呪われの橋』(2020年)は、『返校』よりももっとわかりやすい幽霊の恐怖を描いた物語。橋で肝試しをした後に廃墟となった大学の寮で一晩過ごすというお決まりのシチュエーションに、お決まりのキャラクターが登場する。しかし、そもそも生徒たちの不審死を追うレポーターが事件の真相を探っていくという現在があり、それを軸に、過去に一体何が起きたかが映画の大部分で回想的に描かれていく工夫がされている。だから、変な話幽霊の呪いから逃げ惑う生徒たちが全員死ぬのは最初から自明で、その過程(どんな殺され方をするのか)を鑑賞者である我々は見守る。正直、結果がわかっているものを見させられているので安心感さえあるが、少し物足りなくなる。しかし物語のクライマックスに突然、時間軸を行き来する見せ方のせいで私たちは騙されていたことに気づき、一泡食わされるのが『呪われの橋』の面白い部分である。

 同じく廃墟を舞台にした幽霊ホラーの『杏林医院』も、過去と現在を行ったり来たりする見せ方の作品だ。今は廃病院となった杏林医院で亡くなった家族にもう一度会いたいと集う遺族と、彼らを幽霊に会わせるという霊界ツアーを開いた父と息子。遺族は女性二名で、一人は夫に、一人は姉に会いたいと言う。しかし、ツアーが進むにつれ、陰の気を多く取り込んだ二人が徐々に病院の過去を映す断片的なビジョンを見るようになり、お互いの遺族の死の真相が明かされていくようになっている。これも、時間軸が行き来することで最初に私たちが得た情報が、実はその通りではなかったことに気づかされる見せ方である。ただシンプルなお化け屋敷映画としてでも撮れたはずのものに、そういった脚本の手法を取り入れることで物語全体に人間ドラマなどの“恐怖”以外の深みが生まれてくるのだ。

 そう、台湾ホラーは怖いだけじゃない。そこにはいつも社会的な意味合いをはらんでいたり、映画としてのクラフトマンシップあふれる趣向が練られていたりする。そしてそれを映す、美しい映像表現。上質なアジアホラー映画として、これからもっと台湾ホラーは世界に評価されていくだろう。

■公開情報
『返校 言葉が消えた日』
全国公開中
監督:ジョン・スー
出演:ワン・ジン、ツォン・ジンファ、フー・モンボー、チョイ・シーワン、チュウ・ホンジャン
配給:ツイン
2019年/台湾/カラー/103分/原題:返校/R-15+
(c)Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:henko-movie.com
公式Twitter:@henko_movie

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