『竜とそばかすの姫』にみるインターネット史の変化 良くも悪くも垣間見える細田守らしさ

『竜とそばかすの姫』にみるネット史の変化

 思い返してみれば、『ぼくらのウォーゲーム』の時には登場人物のひとりがパソコンひとつ探すために町中を駆け回ってようやく見つけ、東京の子はハイカラだからなどと言われながらネット世界にアクセスする描写があった。ところが今作では若者じゃなくとも当然のように機器を使いこなし、電車の本数が少なかろうが容易にネット世界には繋がることができる世界が画面の中にはある。そんなことはもはや当たり前だと言ってしまえばそれまでだが、1人の作家の作品群における同じ題材の進化として見ればなかなか興味深いものがある。

 苦しい現実からネット社会に救いを求め、そこでの出会いを通して自分自身と現実を再考する点はスティーヴン・スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』を感じることができるし、誹謗中傷であふれたネット世界にシンボリックに歌姫が存在しつづける部分は岩井俊二の『リリイ・シュシュのすべて』をも想起させるものがある。それだけに、この<U>という世界空間は、先に挙げた細田2作におけるネット世界よりも、前作『未来のミライ』で主人公のくんちゃんが彷徨いこんでしまう“駅”に近いニュアンスではないかと考えてしまう。どこか地に足の付いていない浮遊感のなかで各々が答えを探してさらに見失い、そこに答えがないという答えに気付くのに時間がかかる。

 例によって、後半の展開を含めてカバーしきれていないディテールが存在していたり、脚本や設定の甘さが露呈してしまったりというのは細田作品には付き物だ。少なくとも今作は、なんとしても『美女と野獣』のオマージュをやりたい、ミュージカルを作りたいという確固たる作り手側の意気込みが全編を通してひしひしと感じることができる以上、どんな作品でも探せば探した分だけ出てくる粗にも目をつぶれるだけの力業が働く。その最たるものはエリック・ウォンのプロダクションデザインであり、ジン・キムのキャラクターデザインであり、そしてなんと言っても細田作品初のスコープ画面が生む映画的なスケール感に他ならない。

 劇中の中盤、川沿いを歩くすずがカヌーに乗ったカミシンを見つけて立ち止まり、そこへやってきたしのぶと会話をするシーンがある。手前のすずとしのぶの奥で、画面の右から左へとスコープ画面いっぱいを通過していくカミシンが、フレームアウトした直後にカヌーを抱えて左側からフレームインする。終盤の駅のシーンでも同様にフィックスされたフレームの中で、右端に顔を押さえたままのルカが佇み、フレームの左端をすずとカミシンが出たり入ったりを繰り返す。<U>の浮遊感と現実世界の微動だにしない対比が効果的に、この物語にアニメーション映画としての醍醐味を与えてくれる。

■公開情報
『竜とそばかすの姫』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本・原作:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森川智之、津田健次郎、小山茉美、宮野真守、役所広司ほか
企画・制作:スタジオ地図
製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網共同幹事
配給:東宝
(c)2021 スタジオ地図
公式サイト:https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/studio_chizu/
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