『ひきこもり先生』で佐藤二朗が体現する“命がけの闘い” 今までにない教師と生徒の関係

佐藤二朗が体現する“命がけの闘い”

 土曜ドラマ『ひきこもり先生』(NHK総合)の主人公は11年ひきこもっていた上嶋陽平(佐藤二朗)。彼が中学の非常勤講師になって、不登校生徒をなくすために設けられた「STEPルーム」で生徒たちと触れ合っていく。

 陽平はひきこもりだっただけあって不登校の生徒たちの気持ちが理解できて寄り添うことができる。実際、第1話では、親や学友との問題を抱えて不登校している堀田奈々(鈴木梨央)と心を通わせた。

 奈々は、陽平が店主をしている焼き鳥屋・うめで陽平と語らう。そこは陽平が唯一、社会と触れ合う場であるが、客とコミュニケーションを極力とらないシステムで、「店主に話しかけないでください」「代金はお席に置いて帰ってください」「サービスはしません」等、独特な断り書きが掲げられている。彼が作る焼き鳥も「まずい」。そんな陽平のぎりぎり可能なことを受け入れてくれる人たちが客になる。というか、そういう人しか客になれないのであろう。だから基本、客は少ない。ひきこもり支援の長嶺幸二(半海一晃)や、のちに中学校の同僚になる磯崎藍子(鈴木保奈美)くらいしか来ない。

 焼き鳥屋で、陽平は奈々の曇ったポータブル音楽プレーヤーを洗剤で拭き取る。ぴっかぴかに曇りがとれて「すご!」と目を輝かせる堀田は、好きな歌に乗って店中を磨き始める。生き生きと躍動する奈々の身体から鬱屈した奈々の心がひととき開放されていくことが手にとるようにわかった。その後、ショックなことがあったとき、奈々は陽平に頼る。やがて学校に行くようになった奈々は陽平を「ヤキトリ」とあだ名をつけて呼ぶようになる。

 こうして奈々をはじめとして、いじめや家庭の問題で心を閉ざした生徒たちと陽平は近づいていく……というハートウォームなストーリーであればコトは簡単である。だが、『ひきこもり先生』は各回、ひとりずつ生徒の問題が解決されていくような従来の学園ストーリーではなかった。

 11年ものひきこもり生活から脱した陽平だったが問題がすべて解決したわけではない。陽平がひきこもってしまった時、幼い娘ゆい(吉田美佳子)を自ら突き放してしまったことをずっと気に病んでいた。

 生徒たちからは「ヤキトリ」と親しまれてきたある時、陽平は同級生にいじめられていた生徒の苦しみを目の当たりにして「苦しいときは学校なんか来なくたっていいんだ」と発言してしまう(第3話)。学校としては生徒が来ることが目的なので、不登校生徒たちは驚きつつ嬉しくなるが、中学や教育委員会には困った発言だと受け取る。

 教育委員会の聞き取り調査を受けることになった陽平に“不登校ゼロ”を経営方針に掲げる榊校長(高橋克典)は「この学校にはいじめがない」と証言するように要求する。断りきれず「いじめはない」と嘘をつく陽平。意に沿わない嘘をついたことが頭から離れず、最大の悩みの種だった娘ゆいと雪解けするどころかまたも突き放してしまう。それがまた陽平を苛む。

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