『夏への扉』と『Arc』、いずれも大苦戦 日本の実写SF作品は求められていないのか?

『夏への扉』と『Arc』、いずれも大苦戦

 『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の原作はSF小説の大家ロバート・A・ハインラインの古典、『Arc アーク』の原作は現代のSF小説を代表する(本人はSF作家であることを否定しているが)ケン・リュウの傑作短編。発表された時代こそ違うものの、いずれも海外のSF小説の名作の世界初実写化作品、さらに方や「人工冬眠」、方や「不老不死」とテーマにも類似性があるが、公開時期が被った(『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は緊急事態宣言を受けて今年2月の予定から公開延期となっていた)ことをエクスキューズにはできない初週成績と言わざるを得ない。

 実写SF映画は、近未来の世界や架空の世界を作品のビジュアルとしても提示する比較的大掛かりな作品と、近未来の世界や架空の世界をあくまでも背景の設定として主に現実のロケーションや小規模のセットを使用して撮影されるアート系の作品の二つに大きく分けられる。それでいうと、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は前者、『Arc アーク』は後者のアプローチで制作されていて、それぞれ三木孝浩監督も石川慶監督も自身の作家性を発揮しながらSF作品ならではの創意工夫を凝らしていて、両作品とも見どころは大いにある作品となっている。

 三木孝浩監督も石川慶監督も、日本の実写商業映画の世界では指折りの才能だと自分は高く評価している。今回の新作はそれぞれにとっての最高傑作ではないが、間違いなく野心作であり、もし成功していたらその先にはそれぞれの作家の違った未来、あるいは(特に商業的な)停滞が続く日本映画の違った未来があったはずだ。しかし、そんな送り手の野心は少なくとも現在の日本の観客にはほとんど響かなかった。今週のコラムには結論のようなものはない。三木孝浩監督のファンとして、石川慶監督のファンとして、そして何よりもSF映画のファンとして、今はただ途方に暮れるばかりだ。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』
全国公開中
出演:山崎賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造、藤木直人
監督:三木孝浩
脚本:菅野友恵
主題歌:LiSA「サプライズ」(SACRA MUSIC)
音楽:林ゆうき
原作:ロバート・A・ハインライン/福島正実訳『夏への扉』(ハヤカワ文庫)
配給:東宝=アニプレックス
(c)2021「夏への扉」製作委員会

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