『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』にみる“続編映画”の問題点 本当の勝負は3作目?

『クワイエット・プレイス』の問題点を考える

 クラシンスキー監督はじめ、作り手たちがこのような選択をしているのには、理解できる点も多い。安易に物語の規模まで大きくしてしまうと、前作のように観客に近い目線で描かれる等身大の恐怖が表現できなくなるばかりか、主軸にあった“家族の物語”や、各々の成長のテーマから、作品がそれてしまうことになりかねない。ここでは、予算の配分を工夫して差をつけ、本作があえて同じステージにとどまることで、シリーズの陳腐化を防いでいるといえるのである。

 舞台となる場所を限定的なエリアに絞り、各々のキャラクターを別個に移動させることで、観客に世界観を強く印象づけ、地理的な距離感を感じさせることでリアリティを発生させる演出も見事だ。印象的な廃工場の設備、赤ん坊の泣き声対策なども、ホラーとサスペンスの道具立てとして、大きな役割を果たしている。

 また、音を立てないように裸足で歩くというアボット家の家訓を律儀に守って、足が血だらけになりつつも、同時に父親リーの大胆な精神をも引き継いでいるリーガンのたくましさも見どころとなっている。世界から希望が消えつつあるときでも、諦めず前向きにやれることをやろうという作品のメッセージは、普遍的なものでありながら、同時に現在の社会にフィットしたものとなっている。

 だが、よくよく考えると、本作には疑問を感じる部分もある。基本的に同様のスケールでサスペンスやアクションが展開するのはいいとしても、物語自体が、前作からほとんど動いていないのである。前作と比べると、より大きな恐怖、より大きな達成が描かれているのは確かではあるのだが、その多くは、すでに描かれた要素に類似し過ぎていて、“繰り返し”に思えてしまうのだ。『クワイエット・プレイス』の精神を守るためとはいえ、本編部分が同じ要素の提出に終始してしまうのでは、シリーズを作る意味が薄れてしまうのではないか。

 これは、芸術的な問題というよりも、ハリウッドのマーケティングの問題が大きいと思われる。この流れについては、ヴィン・ディーゼル主演の『リディック』3部作を例に出せば分かりやすいかもしれない。『リディック』シリーズは、1作目『ピッチブラック』(2000年)が、アメリカのSF映画としては低予算の作品として公開されたが、当時売り出し中だったヴィン・ディーゼルの好演と、タフなかっこよさ、暗闇で襲いくるエイリアンたちとの戦いという、ホラー演出を含んだサスペンスとアクションが話題を呼び、成功作となった。この成功を受け、次作『リディック』(2004年)は製作費100億円を超えたビッグプロジェクトとなり、スペースオペラと呼べる超大作映画に変貌を遂げることになった。

 筆者は、『リディック』公開当時、その野心的なスケールアップと、ジャンルの変更に衝撃を受けたし、ヴィン・ディーゼルのスター性をこれでもかと強調する演出も素晴らしいと感じたが、世間は必ずしもそうではなかったらしい。『リディック』は興行的に大きく失敗し、数多くの批判にさらされることになった。そして最終作となる3作目『リディック:ギャラクシー・バトル』(2013年)では、予算の規模が縮小され、結局は1作目の内容に類似した作品となったのだ。

 ここから理解できるのは、評価を受けた作品の続編を、前作と大きく違ったかたちに変更するのはリスクが高いという事実である。その一方、『エイリアン2』(1986年)や『ターミネーター2』(1991年)など、スケールをアップさせつつ、異なる世界観と楽しみ方を描いたことで、映画史に大きく刻まれるシリーズとなった成功例も存在する。スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)は、ほぼ誰もが称賛する名作だが、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)は、そのプレッシャーを意に介さず、前作同様に新しい試みを続々と達成していたのである。

 その意味において、『クワイエット・プレイス』シリーズは、そのような伝説的なシリーズになり得るチャンスの目もありながら、選択肢の中で“ハイリスク・ハイリターン”となる道を選ばなかったということだ。もちろん、このような選択肢も“アリ”だし、世界観を大切にすることで連続ドラマのような厚みがシリーズに加わったのも確かである。だが、1作目が実験性や前衛性を感じる作品であり、そこが評価されていたことを考えると、そういった意味での“創造的”な試みを提出することも必要だったのではないかと思えるのである。とはいえ、本作が前作の流れに逆らわず、良質なサスペンス演出や力強いメッセージを描いたことが、観客の心を動かしたのも、また確かなことなのだ。

 本シリーズは、さらなる続編が計画されているという。そうなると、さすがに今度は1、2作目と同じような内容を繰り返すわけにはいかなくなるだろう。そしてそこが、本シリーズの続編映画としての本当の勝負になるはずである。この先の展開は未知数だが、少なくとも次の走者に確実にバトンを渡したという意味では、本作『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は、その役割をしっかり果たしたと言えるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
全国公開中
監督・脚本・製作・出演:ジョン・クラシンスキー
製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィー、ジャイモン・フンスー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://quietplace.jp/
公式Twitter:@Quietplace_JP

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