『大豆田とわ子と三人の元夫』は理想の男女関係を描き出した 坂元裕二の過去作と比較考察

『まめ夫』は理想の男女関係を描き出した

 まだ16歳の唄が「(医大受験が女子に不利な状況で)自分で医者になるよりも、医者になる彼氏に養ってもらったほうがいい」と陥った専業主婦願望は、二択問題のひとつの答えである。この考え方は、『カルテット』でリッチな白人男性をつかまえ「人生、チョロかった!」と勝ち誇ってみせた元地下アイドル・有朱(吉岡里帆)を連想させる。有朱はあの後もリッチ男性の妻の座に収まり、チョロい人生を送れているのだろうか。

 『カルテット』で松が演じた真紀は、もっと壮絶な境遇だった。早くに母を亡くし、養父には暴力を振るわれていた。他人の戸籍を買い、結婚してようやくつかんだ幸せも夫が失踪してしまい消滅。仕事面でもバイオリン奏者として暮らしていけるほどの収入があるわけではない。それに比べれば、とわ子は父母が離婚したとはいえ、良い教育も受けられ建築士になる勉強もできて、社会的に成功している。『Woman』の主人公と同じシングルマザーだが、その経済状況は違いすぎる。そんな母親を見て育った唄が、やはり自分で医師になろうと考え直したのも自然な流れだろう。

 とわ子は恵まれていたからこそ“究極の二択”を超え、ある意味ぜいたくとも言える“第三の選択”をできた。とわ子は父親に「ひとりだけど楽しく暮らしているよ」と言う。再婚はしなかったが、元夫たちはいつもとわ子を気にかけ、彼女がセクハラ発言を受けたときは一緒に憤ってくれるし、仕事を辞めようとしたときは反対し、効果的な謝罪のやり方を教えてもくれる。とわ子は充分に「誰かに大事にされている」。それは、それぞれ理由があって別れた夫たちも完全に拒絶はせず、彼らが「笑っていてくれれば、もう何でもいい」と考えるとわ子の博愛精神あってのリターンでもある。

 大豆田という苗字が非常に珍しいのとは対照的に、元夫たちの苗字は田中、佐藤、中村と全国有数のメジャーな姓。そして、とわ子が結ばれなかった男性たちは小鳥遊、甘勝という珍しい苗字だった。唄が別れた女性蔑視的な高校生・西園寺も。ひとつの仮説として考えてみると、元夫たちは良識ある世間や寛容な社会というものを象徴していたのかもしれない。

 これまでの坂元作品の多くでは女性たちがハラスメントを受け貧困に苦しみ逮捕される姿がリアルに描かれ、それが他人事とは思えず観るのが辛かっただけに、そういった展開のない本作はとても観やすかった。とわ子のように自分に正直に生きていこうとする女性の周りには、元夫たちのような優しい世間があってほしい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■配信情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレドーガ、TVerにて見逃し配信中
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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