『まめ夫』とわ子と八作の“ありえたかもしれない人生” 最終話は全く想像がつかない結末に?

『まめ夫』が描いたありえたかもしれない人生

 最終的にとわ子は小鳥遊のプロポーズを断る。その理由については、最初の元夫・田中八作(松田龍平)に語るように、人から与えられたものではなく、「欲しいものは自分で手に入れたい」というとわ子の性格もあっただろうし、独りで生きていくのは寂しいが「好きになれる自分と一緒にいたい」ということなのだろう。

 同時にとわ子は、小鳥遊ではなく亡くなった親友の綿来かごめ(市川実日子)の思い出といっしょに生きていくことを選択した。かつて、八作ととわ子がうまく行かなかったのは、八作の中にかごめに対する想いがあったからだが、逆に今はかごめという死者の思い出を共有することができる、恋人とも家族とも違う関係になっている。

 今回、八作の経営するレストラン「オペレッタ」で物音がする。八作が見に行くと誰もいないという場面が繰り返し登場するのだが、あれはやはり「かごめの幽霊」だったのではないかと思う。

 「3人いたら恋愛にならないよ」ととわ子は八作と恋愛関係になることは無理だと言うが、かごめのことを一緒に思い出して「3人で生きていこうよ」と言う。

 マディソンパートナーズやかごめのことを筆頭に『まめ夫』は画面上で起こっていることの向こう側で、別の物語が同時に動いており、場合によっては、見えない事件や人々の方が、重要な物語だったりする。今回、スマホ越しにしか登場しなかった二番目の元夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)の見せ方も同様で、見えない存在をどうやって描くかに本作は腐心している。

 そう考えると、終盤唐突に描かれた「ありえたかもしれないとわ子と八作の結婚生活」の描写も納得できる。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の最終回がそうだったが、恋人同士がこれから起こるだろう未来を想像して物語が終わるというのも、恋愛ドラマでは定番の展開だ。ただ、『まめ夫』の場合は未来ではなく、「ありえたかもしれない人生」だと言うのが面白いところだ。

 唐突に描かれたため、自分は何を見せられているのだろうか? と面食らったが『まめ夫』が描いてきた人生哲学を考えると、起こったことも起こらなかったことも等しく意味があるということなのかもしれない。最終話直前の第9話で、こんな最終回みたいな話をやってしまったら、本当の最終回となる次週はどうするのだろうか? 今まで予想を超えた超展開の連続だった『まめ夫』だけに、どんな結末になるのか、全く想像がつかない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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