『イチケイのカラス』際立つ黒木華の作品理解力 テーマと視聴者をつなぐ存在に

『イチケイのカラス』黒木華の作品理解力

 終始みちおに翻弄される千鶴を、黒木は受けの芝居で演じきっている。堅物で不愛想な人ほど多分に喜怒哀楽が渦巻いているものだが、眉の上げ下げや視線の往来、姿勢や声のトーンを通じて、わずかな感情の変化をバリエーション豊かに表現している。メリハリの効いた黒木のリアクションは堅いテーマに抵抗感のある視聴者をドラマの世界にいざない、同時に「人間的な司法」という本作の主題も明らかにする。社会派の題材はさじ加減が難しいが、エンタメとしての間口を広げつつ物語の急所を端的に示すアクロバティックな任務を見事に遂行している。

 黒木の演技は作品理解力の高さに裏打ちされており、そんな黒木に竹野内も全幅の信頼を置いているように見受けられる。型破りな裁判官というやや既視感のある人物像を、まっさらな状態からこれだけ魅力的なキャラクターに仕立てた陰には、安心して背中を任せられるバディの存在があったのではないか。それは小日向文世や新田真剣佑、中村梅雀、桜井ユキたちイチケイの同僚にも言えるだろう。イチケイ執務室のやり取りはいつ見ても楽しいが、良い意味で異物感を醸し出す千鶴が会話劇のトーンを決定づけている。

 主演作の『凪のお暇』(TBS系)、『重版出来!』(TBS系)などで黒木の実力は証明済み。舞台で鍛えた情報量の多い演技は角が取れて熟練の域に達しつつある。最高のコンサートマスターを得て、『イチケイのカラス』は高尚なテーマをキャッチーに響かせる稀有な作品となった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『イチケイのカラス』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:竹野内豊、黒木華、新田真剣佑、山崎育三郎、草刈民代、小日向文世、中村梅雀、升毅、桜井ユキ、水谷果穂ほか
原作:浅見理都
脚本:浜田秀哉
音楽:服部隆之
プロデュース:後藤博幸、有賀聡、橋爪駿輝
編成企画:高田雄貴
演出:田中亮、星野和成、森脇智延、並木道子
制作協力:ケイファクトリー
制作・著作:フジテレビ第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichikei/
公式Twitter:@ichikei_cx

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