『ボヘミアン・ラプソディ』見どころはライブシーンだけではない 物語で変わる音楽の響き

『ボヘミアン・ラプソディ』物語としての魅力

 イエスマンたちに囲まれながら、ひとり孤独に自らの音楽を作り続けるフレディ。そんな彼の身体に、異変が現れる。その当時は「不治の病」として恐れられていた「エイズ(AIDS /HIV感染の症状であり、現在はその発症を抑えることが可能となっている)」の兆候だ。自らの身体が病気に蝕まれつつあることを知って、さらに孤独感を深めるフレディ。そのとき彼は、空前の大規模チャリティーロックイベント「ライヴエイド」への出演依頼が、クイーンのもとにきていることを知るのだった。「俺は最低だった。うぬぼれて、身勝手で……要はクソ野郎だ」。久方ぶりに再会したメンバーに頭を下げ、クイーンの活動再開と「ライヴエイド」への出演を取り付けるフレディ。その後彼は、リハーサルを重ねるメンバーたちに、自分がエイズに侵されていることを告白する。そして彼は、戸惑うメンバーたちに向けて、こう宣言するのだった。「エイズに侵された悲劇の主人公でいるつもりはない。俺が何者かは俺自身が決めるのだ」と。そう、「なりたい自分」と「本当の自分」ーーその果てに彼が見つけ出したのは、人々に最高の天国をもたらせるパフォーマー「フレディ・マーキュリー」として、大観衆の前で歌うことだった。

 かくしてやってきた1985年7月ーー「ライヴエイド」当日。クイーンが出演するイギリス側の会場となったウェンブリースタジアムには、70000人以上の観客が詰めかけていた。実際のライブ音源を使用しながら、驚愕のVFX技術を駆使して、ほとんど完全コピー――あるいは、それ以上の迫力と言ってもいいほどの仕上がりで、スクリーンに描き出される「ライヴエイド」のステージ。「さよなら、みんな。もう行かなくては」――フレディがおもむろにピアノで弾き語り始めた1曲目の「ボヘミアン・ラプソディ」から、その歌詞の端々が観る者の胸を打つ。「まだ誰かが、君を愛しているから」と歌う「レディオ・ガ・ガ」。そして、「時間を無駄にするな」と歌い上げる「ハマー・トゥ・フォール」。さらには、「俺たちは勝者だ」と、拳を振り上げながら観客ともども高らかに歌い上げる「ウィ・アー・ザ・チャンピオン」。これまでの「物語」を踏まえながら、よりいっそうの「意味」を帯びてスタジアムに響き渡るクイーン往年の名曲たち。その光景に、心を揺り動かさずにいられようか。その歌は、「なりたい自分になること」と「本当の自分を見つけること」に折り合いをつけ、自ら覚悟を決めた男の「魂の歌」なのだから。

 もちろん、「物語」はときとして危険なものである。なぜなら、その「物語」を通じて、何かがわかったような気になってしまうから。そう、この映画を観たところで、本当のフレディのことなんてわからない。けれども、その「音楽」については、どうだろう。その「物語」が、「音楽」に新たな気づきや感動をもらせることは、やっぱりあるのだ。2018年に劇場公開され、世界で1000億円以上、ここ日本でも130億円以上という驚異的な興行収入を弾き出した映画『ボヘミアン・ラプソディ』。この映画を観たあと、クイーンの音楽は、それまでと違って聴こえるだろうか? 少なくとも、フレディが見たであろう、あのスタジアムの光景は、クイーンの音楽を聴くたびに、しばらくのあいだ何度も何度も心の中によみがえってくるのだろう。それぐらいの強度と余韻を持った、実にエモーショナルな映画だと思う。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■放送情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
日本テレビ系にて、6月4日(金)21:00~23:39放送
※45分枠拡大
※地上波初放送、本編ノーカット
監督:ブライアン・シンガー
音楽プロデューサー:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ、トム・ホランダー、マイク・マイヤーズ
Motion Picture(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation, Regency Entertainment (USA), Inc. and TSG Entertainment Finance LLC in the U.S. only.(c)2018 Twentieth Century

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