『クルエラ』の甘美でパンクな復讐劇 起源となった女優タルラー・バンクヘッドの先進性

『クルエラ』エレガントでパンクな復讐劇

狂乱の未来

 クルエラの造形デザインが召喚するのは、劇中でも楽曲が使用されるブロンディのデボラ・ハリー、またはニーナ・ハーゲンといったパンクのアイコン。そしてヴィヴィアン・ウエストウッド。ジョン・ガリアーノのデザインからインスピレーションを受けたというニュースペーパー柄のデザインは、作中のフォントにも応用され、クルエラの顔には「THE FUTURE」の文字がペイントされる。そう、クルエラは未来。グラムとパンクの子ともいえようクルエラのビジュアルは、ポール・マッカトニーのPVに出演したエマ・ストーンの未来的なビジュアルをも召喚する。そしてグラムロッカー風のアーティを(バンド)メンバーに加えていることから、本作にはグラムパンク・オペレッタな趣さえある。

 『クルエラ』では、ジャスパーとホーレスとともに泥棒を生業とするシーンの、その手口が鮮やかに演出される。人間と犬が連携する泥棒シーンの鮮やかさは、オリジナル『101匹わんちゃん』(1961年)における、遠吠えで連携する犬たちに、「人間との共生」という新たな解釈を加えたオマージュといえる。クルエラ、ジャスパーとホーレスと犬たちとの関係は、飼い主とペットの主従関係というよりも、フェアな共犯関係にある。

 クルエラは少女エステラ時代に世界的なカリスマデザイナー、バロネスが開くファッションショーのキラキラした華やかさに心を奪われる。私の心を奪った泥棒。クルエラのバロネスへの復讐は、その復讐のアティテュードとして極めてエレガントで鮮やかな方法をとる。クルエラは、かつて少女時代に心を奪われた方法で復讐をする。さらにクルエラ自身を反権力の芸術として戯画化していく。クルエラは、誰にも負けない、そして誰をも魅了するファッションショーでもってバロネスに復讐をする。ショーをもってショーを制す。このファッショナブルにして痛快、甘美な復讐劇!

 アーティの「(協力する)見返りは何?」という問いかけに、クルエラは「豪華な狂乱の一夜!」と返答する。『クルエラ』において、奪い返すという復讐は、かつて自分が心を奪われたものへの落とし前として帰結する。魅了された相手に対して魅了し返す。狂乱の一夜をもって狂乱の一夜を制す。そして、かつて「私の心を奪われた」少女が、今度はあなたの心を奪う泥棒になる。新時代のヴィランの誕生に盛大な祝福を!

■宮代大嗣(maplecat-eve)
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、キネマ旬報、松本俊夫特集パンフレットに論評を寄稿。Twitterブログ

■公開・配信情報
『クルエラ』
映画館、ディズニープラス プレミア アクセスにて公開中
※プレミアアクセスは追加支払いが必要
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
(c)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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