2人の女性が共鳴 “情報”が重要なソリッド・シチュエーション・スリラー『オキシジェン』

『オキシジェン』の物語が真に迫ってくる理由

 本作の物語にとって最も重要なのは、“情報”である。言葉や一般常識以外、何も分からない女性が制限時間のなかで、このポッド内での膠着状況から脱するためには、何よりも多くの情報を得て、たくさんの物事を理解しなければならない。酸素量が減っていくなか、それはひどく遠回りな方法に思える。しかし、そのやり方でしか命は助からないのも確かなのだ。この、ほとんど上映時間とリアルタイムで進行していくドラマの見事さが、映画の核になっているといえよう。

 そんな本作の脚本を書いたのは、カナダ出身のクリスティー・ルブラン。脚本に関するメディア「スクリプト・マガジン」の取材によると、彼女はシングルマザーとして日々の生活費を稼ぐ生活のなかで一念発起して、受講やワークショップを経験し、努力と研鑽を重ねることで、夢である映画脚本家のキャリアを本作によって本格的にスタートさせたのだという。自作の映画化を目指す脚本家たちの競争の熾烈さを考えると、彼女がこの企画を花咲かせたということは快挙だといえよう。ルブランは、2016年に脚本のためのアイディアを考えながら、当時の行き場のない自分の人生を作品に投影させることを思いつき、箱に閉じ込められる女性のイメージに行き着いたのだという。彼女はそこから、後に『オキシジェン』に繋がる脚本を猛スピードで書き上げ、売り込みに成功することとなる。

 それを知ると、本作のストーリーが真に迫ってくる理由が納得できる。息苦しい世界のなかで生きる苦しみや、迫るタイムリミット、誰を信用していいか分からない不信感など、ここで描かれている多くの困難は、現実の生活を限られた条件のなかで精一杯送っている者の心の叫びなのだ。何の経験もなかった駆け出しの頃から猛勉強を重ねたルブランの人生の一時期は、まさに空っぽの状態から、必死に情報をとり込んで自分という存在を追求することで状況を打開しようとする、メラニー・ロラン演じる主人公の奮闘する姿へと、見事に昇華されることとなった。

 主演のメラニー・ロランもまた、俳優以外に映画監督としてのキャリアを持ち、近年も骨太な映画『ガルヴェストン』(2018年)を撮り上げている、優れたクリエイターである。脚本家のルブランの分身を、主演のロランが演じる……この2人の才能ある女性の共鳴が、本作を一層味わい深いものにしているのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『オキシジェン』
Netflixにて配信中
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:メラニー・ロラン、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ

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