鈴木涼美が選ぶ「宮台真司の3冊」 その後の仁義なき制服少女 2021

鈴木涼美の<私に影響を与えた宮台真司の本>

 『制服少女たちの選択』が、それを読みながら女子高生になった私にとって何であったか、と考える。私たちの味方となり、私たちに寄り添って、私たちの足りない言葉を補って全肯定するものだったのだろうか? 少なくとも当時はそういった側面もあったように思うが、むしろ、その、大人たちの言葉が私たちにとって意味がないものだ、という事実を論じてみせた本であった気がする。そして私たちが、なぜそれらの言葉をガン無視して、無敵な気分でいられるのかについて解説した本でもあった。

「教育評論家やいわゆる「識者」の方がたは言う、少女たちは自分自身を傷つけていることを知らないと。いつかは後悔するだろうと。しかしその「傷」という観念たるや、すでに「価値判断」の産物にすぎず、「問題」にならない」

「こうした「オジサンカルチャー」に対応するように、女子高生は「不自由」な制服がかもしだすカワイさという価値を熟知している」

 もしこの本が、私たちの味方をすることに重きを置かれた、応援歌のようなものであったなら、12年後にそれが一部の訂正を含んで振り返られた時に、私は梯子を外されたような、乗せられて逃げられたような、物悲しい気分になっていたかもしれない。ただ、少なくとも当時、ろくな言葉を持たない女子高生だった私にとって、少し歳上のおねえさんたちの世代に取材して書かれたこの本は、大人の言い分がいかに無効か、について解説してくれるものだった。私たちがなぜ、大人たちの用意する傷と不幸と逸脱の物語を、自分と無関係のように思うのかを私たちのものではない言葉と理論で教えられた。だから「After 10 Years」によって、当時の自分らのそこはかとない「本当に問題がないままでいいのか」という予感が補完された時にも、それほど見放された気はしなかったのだ。

 女子高生の制服を脱ぎ捨ててもうすぐ20年になる。今の私は犯罪者でも被害者でもない視点から、当時の楽しさや後悔を語る言葉を多少は持っている。そして犯罪者でも被害者でもない視点があり得ると言うことを学んだ最初の契機が、宮台真司の本だったように思う。

■鈴木涼美
1983年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学在学中にAVデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に5年半勤務し、現在はフリーの文筆業。著書に『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『おじさんメモリアル』『オンナの値段』『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』、『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』、『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』など。最新刊は『ニッポンのおじさん』。

■書籍情報

『崩壊を加速させよ  「社会」が沈んで「世界」が浮上する』
著者:宮台真司
発売中
ISBN 978-4-909852-09-0 C0074
仕様:四六判/424ページ
定価:2,970円(本体2,700円+税)
出版社:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com/

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