オダギリジョー、爽やか登場から一転のおぞましさ 『まめ夫』小鳥遊はもう1人のとわ子?

『まめ夫』オダギリジョーのおぞましさ

 八作ととわ子のやりとりの向こう側には亡くなったかごめの存在が常にあり、不在の死者を介して二人が今もつながっていることがよくわかる。しかし、八作が好きな人がかごめだったことに気づいてしまったとわ子は、かごめの話を気軽にすることはできない。

 そんなとわ子が、かごめへの思いを口にしてしまうのが、偶然バスの中で知り合ったオダギリジョーが演じる謎の男だ。朝のラジオ体操で顔は合わせていたが、交流のなかった2人は、とわ子がバスに置き忘れたパンをきっかけに仲良くなり、二人で「好き」なことについて話しているうちに、とわ子はかごめのことを話してしまう。

 とわ子は見ず知らずの人になぜ親友が亡くなったことを話しているのだろうかと戸惑うが、見ず知らずのよく知らない相手だからこそ話してしまったという方が正解ではないかと思う。

 自分の心情を饒舌に喋るとわ子の姿は、思わせぶりなやりとりが延々と続く『まめ夫』らしくないストレートな場面で、だからこそ優しく受け止め、死者と時間に対して自分自身が考える哲学を理知的に語ることで、とわ子の悲しみを受け止める男の優しさが染み渡る。だが、あまりにも良いシーン過ぎて胡散臭く、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう自分もいる。

 やがて彼が、しろくまハウジングの株買収を指揮していたマディソンパートナーズの法務部部長・小鳥遊大史だったことが明らかになる。

 とわ子の話をおだやかな佇まいでうけ止めた時と同じ口調で、とわ子が社員に対してパワーハラスメントを行っていたという(おそらく松林がリークした)内部告発を淡々と読み上げ、回答によってはとわ子の解任決議案を提出すると言う。

 この時点で充分、小鳥遊は恐ろしいのだが、もっと恐ろしいのはその後である。

 翌日、朝のラジオ体操の場に小鳥遊はいつもどおり参加していた、気軽に声をかけてくる小鳥遊に困惑するとわ子に対し「昨日お会いしたのはビジネスじゃないですか。これはプライベートでしょ」と言う小鳥遊。

 このシーンが皮肉なのは、とわ子が停職処分を言い渡した松林が、とわ子が松林の母親を心配して渡した「ぽかぽか」するバスオイルを返そうとした際に「停職とぽかぽかは別だよ」と優しく言った場面を思い出させるからだろう。

 もしかしたら、小鳥遊はもう1人のとわ子なのかもしれない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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