風刺コメディー『ここぼく』は現実と地続きの物語 日本社会の問題と“好感度”の関係とは?

風刺コメディー『ここぼく』は現実と地続き?

権力者に楯突くのは女性と若者と変人と外国人

 第3話では、大学で行われるイベントが思わぬところからネットで炎上し、ついには爆破予告まで送られてきてしまうことになる。

 「国の金を使って、国を貶める人間を呼ぶのはおかしい」という苦情が多数寄せられる展開は、「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる問題や、日本学術会議の任命拒否問題を思い起こさせる。須田理事(國村隼)に大臣補佐官が語った「国立大学というのは大学人のものではなく、国のものだ」という言葉も日本学術会議の件に通じている。大学を学術研究の場からグローバル人材育成の場に切り替えようとする政治家の発言も繰り返されてきた。

 大学の理事会では即座にイベント中止の決定が下されるが、新聞部が「言論の自由」に関するデモを行い、イベントに出演予定のジャーナリストが外国人記者クラブで記者会見を行ったため、総長の三芳が記者会見を行うことに。恩師である三芳のために一念発起した真は、批判、誤解、炎上を避けるには「意味」を最小限に控えることが日本における正しいリスクマネジメントだと熱弁する。

「日本人向けの好感度戦略を練るべきです。その鉄則は1.清潔感、2.笑顔、そして3.意味のあることを言わない!」

 真の言うことは的を射ている。安倍前首相と菅義偉首相をはじめとする政治家たちは「質問に答えない」という答弁スタイルを確立し、好感度(支持率)は上がっていった。コロナ禍がそれをひっくり返したように見えたが、今でも「質問に答えない」スタイルは続いている。

 結局、三芳はかつての教え子である外国人記者の質問にほだされて、イベント中止を撤回する。男社会に君臨する権力者の不正や隠蔽を糾弾し、欺瞞を突くのは、女性と若者と変人と外国人と理想主義者ばかりだ。そして、彼らは世間に嫌われがちである。

 世間とは、権力者や真が考える「好感度」の対象となる人たちである。彼らは、国立大学は国のものだと考える大臣補佐官がいる与党を支持し、日本を批判するジャーナリストが税金を使ってイベントを行うことに憤怒し、意味のない受け答えを見ても清潔感と笑顔さえあれば受け入れる。忖度は「空気を読む」ことだと歓迎され、正論は「空気を読まない」と嫌われる。権力者も真も「好感度」のためにそんな世間に迎合し、行動していく。つまり、「好感度」と日本社会が抱える問題はきわめて深い関係にあると言える。

 では、このドラマを観ている「我々」と「世間」は違うのだろうか。それがこのドラマの問いかけではないだろうか。ドラマの中身と現実が地続きなら、視聴者である我々だって安全圏にはいられない。

 問いかけについて考えるヒントはある。真について、ナレーション(伊武雅刀)はこう語っていた。

「複雑なことの嫌いな彼は、世界に単純であってほしかった」

 だけど、作中で何度も言及されるように、この世界はとてつもなく複雑だ。理想と現実だってごちゃごちゃしている。世界を単純なものだと捉えてわかった気になるか、世界を複雑なものだと捉えて考えることを辞めないか。この違いは大きい。はたして、真はどんな結末を迎えるのだろうか。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送 ※4K制作
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK

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