松坂桃李が絶体絶命のピンチに 『ここぼく』が映す矛盾に満ちた人間像

『ここぼく』が映す矛盾に満ちた人間像

 好感度第一で中身のない言葉を並べていた真は、広報担当として大学の危機管理を担う。真が考えた対処方法は好感度の維持。ことが大きくなる前にうやむやにし、マスコミの追及を無意味な応答で切り抜ける。真実に重きは置かれず、あくまで無難にやりすごすこと。そうすれば、自分の好感度を損なうことはない。「今ここにある危機」はあくまで対岸の火事で、守るべきは自身の好感度だ。学問の府としての大学を守ろうとするみのり(鈴木杏)や三芳(松重豊)の姿を目にし、好感度以外の価値を知ってもそれは変わらない。元来が軽薄で考えることを放棄した人間であるゆえに、危機が間近に迫っても好感度が優先されてきた。

 ただし、その考え方は相手が人間である限りにおいて通用する。忖度が通るのは人間だけで、言葉の通じない蚊やウイルスにはいくら好感度を叫んでも意味がない。第4話がそれまでの回と違うのは、危機が人為的なものを超えたところから発している点だ。好感度が無効化された結果、今ここにある危機が「ぼくの危機」に変わった。真にとって画期的であるが、これまでになく危機的な状況ではある。初めてかと言うと決してそういうわけではないだろう。被災地を訪れて言葉を失くした時もあった。けれども真は言葉を放棄し、上辺のレトリックや笑顔に逃げてきた。

 真にとって関心があるのは自分だけで、目の前にいる交際相手の感情の揺れも伝わらない。言うなれば、真が追い求めてきたのは他者不在の好感度で、それが行き着いた果てに言葉の通じない存在と対峙することになった。「真実を知りたければ自分で調べるしかない」と三芳が言うように、真が所属し手を貸してきた社会は、真実が必要な時に、それを目の届かないところに隠す。何より痛ましいのは、真自身が真実から目を背けたくて仕方ないこと。これを代償と呼ばずに何と呼ぶのか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送 ※4K制作
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK

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