中村倫也の歌声と声の演技にも注目! 実写版『アラジン』の“面白さ”と“新しさ”を解説

実写版『アラジン』の面白さと新しさを解説

 こうして見ていくと、改めて『アラジン』のコンテンツとしての隙のなさが際立ってくるが、ストーリーや演出面、仕掛けにおいても様々な趣向を凝らしてあり、「いまの映画」にアップデートした部分が興味深い。ここからは、具体的な内容に踏み込んで本作の面白さを考えてゆこう。

 『アラジン』を紐解いていくうえで非常に重要なのは、実写版の“先輩”ともいえる『美女と野獣』の存在だ。こちらの作品は「驚異的な再現度」と「各キャラ&ストーリーの現代化」、さらに「新曲の追加」といった部分に、独自の強みがあった(エマ・ワトソンやウィル・スミスといった世界的スターの起用も共通)。

 『美女と野獣』においては、アニメ版の作曲家アラン・メンケンがカムバック。野獣が切ない胸の内を歌う「ひそかな夢」ほか新曲を書き下ろした。さらに、アニメ版の主題歌を歌ったセリーヌ・ディオンも帰還し、新曲「時は永遠に」を披露している。引き続き、『アラジン』でもメンケンは新曲「スピーチレス~心の声」ほかを制作。ちなみにこの曲、作詞は『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』のベンジ・パセクとジャスティン・ポールが手掛けている。ディズニーアニメといえばやはり音楽とセットで愛されてきたものであり、世界観をより拡張させていくアプローチが秀逸だ。

 そして、「ひそかな夢」が野獣のキャラクター性の掘り下げに寄与したように、「スピーチレス~心の声」はジャスミンの内面により踏み込み、彼女の“強さ”をかつてなく描き出した。スピーチレス、つまり「無言」は、言うまでもなく女性が置かれた立場の低さを象徴している。本作におけるジャスミンのポジションは、「自由に生きたい」「リーダーとして活躍したい」と思いながらも、旧態依然とした「他国の王子との結婚相手」として扱われているというもの。こうした風習に対してのアンチテーゼが、強いメッセージとして組み込まれているのだ。日本語では「言葉をかき消されて」「私は、もうこれ以上黙っていられない」というワードが並んでおり、#MeToo運動とのリンクも感じさせる。より時代に即したアップデートを施した好例であり、本作を象徴する演出といえよう。

 こうしたキャラクターの描写への変化は、敵役のジャファーに対しても見られる。実写版ではより若く年齢設定を引き下げた代わりに、アラジンの鏡映しのような存在へとスライドさせているのだ。アラジンと同じように貧民の出で盗人であり、狡猾に立ち回ることで国務大臣にまで上り詰めた彼は、努力の人でもある。アグラバーという国の“闇”でもある貧富の差を描き出しつつ、このシステムにどう適応するかを体現するジャファーの存在は、単なるヴィランとして片づけられない物悲しさもはらみ、ドラマを一層奥深いものにしている。

 印象的なのは、ジャファーがアラジンに生き方を説くシーン。「リンゴを盗めばコソ泥、国を盗めば支配者だ。今のままでいいか? 最強でなければ意味がない」というセリフは、環境を呪いながらも、自分の力でのし上がった(正攻法ではないにしても)ジャファーにしか言えないものであり、従来のイメージを覆すものでもある。ジーニーの描き方にせよ、彼の孤独と「“普通”になりたい」という切なる願いをよりドラマティックに味付けしており、それによってアラジンとの友情も映える設計に(主従関係の危うさをわかりやすく言及)。そもそも冒頭シーンも、アニメ版の『アラジン』とは変えており、その小粋な演出に驚かされる。

 メインキャラクターそれぞれにおいて、心情描写が細かくなり、紋切り型の人物設計にならなくなったところが、実写版『アラジン』の新しさといえるだろう。ちなみにこの演出法は、『美女と野獣』や『アラジン』に限らず、『マレフィセント』から『クルエラ』に至るまで、ディズニー×実写作品に共通するもの。その方法論が周知されているという部分も、支持・評価されている点といえるかもしれない。

 再現度という部分においては、やはり「フレンド・ライク・ミー」のパートが挙げられるだろう。アラジンとジーニーの初対面シーンであり、ジーニーが自分の力をプレゼンする華やかでコミカルな演出が非常に人気だったが、アニメ版のテンションや描写をしっかりと踏襲しつつも、「倍増し!」と言いたくなるほどド派手にエスカレートさせている。ラップパートまで組み込まれ、ヒップホップ調のテイストが加わっており(吹替版では山寺もラップに挑戦)、観ると大いに盛り上がる部分だ。ちなみに「フレンド・ライク・ミー」は映画の中で3回登場するが、全ての見せ方が変わっている。エンドロールで流れるウィル・スミス×DJキャレドのバージョンも壮絶にクールなナンバーに仕上がっており、最後の最後まで楽しめる。

 1本の娯楽大作として完成されていながら、現代的な問いかけも内包した実写版『アラジン』。ちなみに本作、続編制作が決定済み。この熱は、まだまだ続きそうだ。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送情報
『アラジン』
日本テレビ系にて、5月21日(金)21:00~23:29放送
※35分枠拡大
※テレビ初放送・本編ノーカット
監督:ガイ・リッチー
脚本:ジョン・オーガスト、ガイ・リッチー
歌・音楽:アラン・メンケン
声の出演:中村倫也、山寺宏一、木下晴香、北村一輝、菅生隆之、沢城みゆき、平川大輔、宮内敦士
(c)Disney Enterprises, Inc.

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