『おちょやん』は視聴者の心を映す水面のような朝ドラだった 千代の女優人生を振り返って

『おちょやん』千代の女優人生を振り返って

 『おちょやん』で、こと中盤から後半にかけての竹井千代の立ち位置は「他者をケアする人」であった。それは子供時代からさまざまな場面で象徴的に描かれた「月」と繋がるような気もしつつ、そこが最終的に“お母ちゃん”という千代のキャラクターにリンクしていく展開になんとなく居心地の悪さを感じてしまったのだ。

 と、いろいろ書いてきたが、千代の舞台の初日に匿名で花を贈り続けていた“花かごの人”が、幼い千代と弟のヨシヲを家から放り出した栗子であったことや、千代の幼少時代を演じた毎田暖乃をテルヲと栗子の孫として再登場させる仕掛け、防空壕の中で千代と即興漫才を繰り広げた花車当郎(塚地武雅)が彼女をふたたび芝居の世界に引き上げる流れにはいい意味で驚かされた。

 『おちょやん』は視聴者の心を映す水面のような朝ドラだったと思う。酷い仕打ちを受けた肉親とどう向き合うのか、互いの孤独が強いエネルギーとなり、添ったはずの関係が壊れた時にどう生きるか、人を赦す、赦さないことは自分の中でどんな感情を生むのか、そして表現者としての業とはなにか……。これほど、観た人それぞれが違う場所にフォーカスをあて視聴した作品は近年の朝ドラでは珍しいかもしれない。

 最終回、さまざまな想いを乗り越え、ふたたび舞台に立って一平と共演した千代。この舞台の千穐楽の後は「他者をケアするお母ちゃん」ではなく、女優として自らの道を突き進む主人公として生きてほしいと願う。私たちはその千代の姿をもう見ることはできないけれど。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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