今語るべきは「愛」ではなく「筋」なのでは? 全興連の声明文に思う

 1957年に設立、1958年に厚生大臣(現厚生労働大臣)に認可され、現在も厚生労働省の管轄下にある全興連は、そもそもの組織の由来やあり方として、国に対して(今回の場合は都だが)ロビー活動を行う立場にはないのだろうか? スポーツイベントやライブイベントや演劇への措置との今回の「差別」の背景について考えるなら、そのような業界団体としての成り立ちにまで立ち返る必要があるのかもしれない。

 今回の声明文「映画を愛する皆様へ」には「今後は、今まで以上に東京都様に我々の感染対策を説明し、一日も早くご理解を賜る努力を続けてまいります」とある。現在のところ、緊急事態宣言は5月31日までとされているが、全興連としては継続的に都に働きかけて、その期間内であっても1日でも早く休業要請の変更を求める方針なのだろう。「映画を愛する」都民の一人として、その働きかけがうまくいくことを切に願っているが、それと同時に今語るべきは「愛」についてではなく、行政の「筋」についてであるはずだ。日本全国の映画興行の要であり、当地域のシネコンや映画館が営業してなければ新作公開そのものが止まってしまう東京。その行政を司る人々には、ちゃんと筋を通してもらいたい。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「興行成績一刀両断」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる