川上洋平に続き長岡亮介も ミュージシャンが俳優として起用される理由は“新鮮さ重視”?

ミュージシャンが俳優として起用される理由

 ミュージシャンが俳優として起用される理由は、演技力ではなく、その人が持っている感性や雰囲気、存在感、あるいは時代性が求められることが多い。当然、話題性も見込まれているだろうが、作品の中に見慣れた俳優たちではない姿を放り込むことで、視聴者に新鮮な驚きを与え、作品にも予期せぬ化学反応を起こすことがある。

 プロデューサーの「閃き」によって俳優として起用され、日本中に大きなインパクトを与えたミュージシャンが一昨年に惜しくも逝去した萩原健一だった。

 ザ・テンプターズのボーカリストとしてデビューし、ロックバンドPYGを経て、代役として主役に抜擢された映画『約束』で俳優デビュー。ドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)の新人刑事役を誰にしようか悩みに悩んでいたプロデューサーの岡田晋吉は『約束』を観て「彼だ!」と閃いて起用に至った。

 このとき、萩原は「自分は、登場人物に“化ける”ことはできない。“俺自身”を使ってほしい」と語ったという(引用:マカロニ刑事を「辞めたい」と 岡田晋吉さん、萩原健一さんを悼む - 産経ニュース)。ミュージシャンのドラマ起用の理由として、これ以上の表現はないと思う。当時21歳だった萩原自身が持つみずみずしい感性や時代性が作品に反映され、『太陽にほえろ!』は大成功をおさめた。

 萩原と同時期に活躍したミュージシャン、沢田研二は演出家・久世光彦のたっての願いでドラマ『悪魔のようなあいつ』(TBS系)に主演、三億円事件の犯人でありながら男娼という役柄を演じきってみせた。『悪魔のようなあいつ』では、沢田と一緒にザ・タイガースでベーシストとして活躍していた岸部おさみが俳優デビューを飾っている。後に岸部一徳と改名し、ドラマや映画にはなくてはならないバイプレイヤーとなった。

 4K修復版が公開されて話題となった大島渚監督の『戦場メリークリスマス』には当初、デヴィッド・ボウイとともに沢田研二がキャスティングされていたが、沢田はスケジュールの都合で出演を断っている。その代わりに白羽の矢が立ったのが、YMOや忌野清志郎とのユニットで人気を博していたミュージシャンの坂本龍一だった。求められていたのは演技力ではなく、坂本の感性であり、たたずまいであり、プロの俳優にはない異物感である。

 安全地帯のボーカリスト、玉置浩二は、やはり久世光彦にスカウトされてドラマ『キツイ奴ら』(TBS系)で軽妙な役柄を演じた後、NHKの大河ドラマ『秀吉』では足利義昭将軍を狂気じみた演技で表現してみせて絶大なインパクトを与えた。近年は俳優としての活動をほとんど行っていないが、現在の玉置がどんな演技を見せてくれるのか、興味深いところではある。

 今後も独特の雰囲気や感性を持つミュージシャンがドラマや映画などに起用される例は続いていくだろう。単なる話題作りにとどまらない、視聴者の意表を突いたインパクトのあるキャスティングは大歓迎である。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる