『ソロ活女子のススメ』にみる、“おひとりさま"の進化 時代による変換と後ろめたさの払拭

“おひとりさま”ドラマの変容

 ひとりでいることを自ら選択しているのに、お節介な白い目と「相手がいなくて渋々」というニュアンスが世間から付随されてしまったせいで、“おひとりさま”は勇気がいるもの、チャレンジするものになってしまったのではないだろうか。しかし、それに変化を与えたのが2012年に登場した、松重豊主演『孤独のグルメ』(テレビ東京系)だ。興味深いのがその展開の仕方で、これまでの“おひとりさま”ドラマが一人でいる当事者ではなく、その周囲にいる他者がその人のことを「一人だ」と観察していたスタイルから、当事者のモノローグへと変わっているのだ。そうすることで、ようやく一人でいることを選んだ人の心境を伝えることができるようになった。そして、松重演じる主人公が決して「偏屈」でも「完璧主義」でもなく、素直に目の前のグルメに舌鼓を打つ様子が、“おひとりさま”の気配を軟化した。

 『ソロ活女子のススメ』も極めてこの『孤独のグルメ』スタイルに近い作風で、主人公が今までやってみたかった興味あることを純粋に楽しんでいる。誰かとやった時には十分に満喫できなかったことを、自分自身が心の底から楽しみ、隅から隅まで味わい尽くそうとする。決して「放っておいて、一人にさせて」というのではなく、あくまで、「私は好きなことをエンジョイしたいから、これは一人でやるね。楽しかったら共有するね」という素直さがあり、一人行動を悲壮感なく描く点が大きな特徴だ。

 そうして、好きなものを素直に一人で楽しむことの素敵さを教えてくれるのは『ゆるキャン△』(テレビ東京系)にも共通している。キャンプという、一般的に大人数でやるとされていたものを一人でやってもいい。一人でやるからこそ、楽しめるハプニングや気付ける新しい発見がある。それをまた、誰かと一緒にやってもいい。そう描くドラマが増えてきたからこそ、現実世界にいるソロ活民もしがらみや煩わしさから解放されて楽に好きなことができるようになるものだ。『結婚できない男』だって、本人はひとり焼肉や、一人でクラシック音楽を聴く時間を楽しんでいたわけで、言ってしまえばそれはソロ活。同じ40歳という設定の似た物同士の主人公、時代が違えば『ソロ活女子のススメ』は『結婚できない女』というタイトルになってしまい、『結婚できない男』は『ソロ活男子のススメ』になっていたのかもしれないと思うと、少し皮肉に感じる。

 そういった点を含めて、世間の目を気にせず、純粋に何かにワクワクすることの大切さや素直さを全面的に押し出す近年のドラマは、2000年代のドラマが植え付けた“おひとりさま”へのマイナスイメージを払拭しつつある。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。ソロ活系女子。InstagramTwitter

■放送情報
ドラマ25『ソロ活女子のススメ』
テレビ東京、テレビ大阪ほかにて、毎週金曜深夜0:52~1:23放送
Paravi、ひかりTVにて、前話の地上波放送終了直後より先行配信
出演:江口のりこ、小林きな子、渋谷謙人、佐々木春香
ナレーター:大塚明夫
原案:朝井麻由美『ソロ活女子のススメ』(大和書房刊)
脚本・監督:及川博則(株式会社ライス)
オープニングテーマ:Sano ibuki「Genius」(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
エンディングテーマ:Homecomings「Herge」(ポニーキャニオン / IRORI Records)
プロデューサー:森田昇(テレビ東京)、村上浩美(株式会社ライス)、永井清(株式会社ライス)
制作:テレビ東京、株式会社ライス
製作著作:「ソロ活女子のススメ」製作委員会
(c)「ソロ活女子のススメ」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/solokatsu/
公式Twitter:@tx_solokatsu

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる