映画興行の「日常」は戻ってくるのか? 半年以上続く「ヒット作独り勝ち」現象

半年以上続く「ヒット作独り勝ち」現象

 「イベント化」するような作品しか大ヒットにならないならば、外国映画から「イベント化」するような作品が公開されればいい。そう考えるのが妥当ではあるが、今年のゴールデンウィークの目玉作品として大きな期待が寄せられていた、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』以来久々のマーベル・シネマティック・ユニバース映画『ブラック・ウィドウ』は7月9日まで公開延期。さらに、ディズニープラスのプレミアアクセスで劇場公開と同時配信されることも決定している。つまり、『ラーヤと龍の王国』がそうだったように(参照:ディズニーにとっては因果応報? 『ラーヤと龍の王国』の悲劇)、そもそも日本のすべての大手シネコン・チェーンで公開されるかどうかさえまだ不透明なのだ。

 日本における外国映画興行の今後を心配しているところに、まさに追い討ちをかけるように、このような映画興行的には「自爆」と言うしかないバッド・ニュースが飛び込んでくる2021年。一方で、ここ日本でも多くのマーベル・ファンは、この1月から毎週配信されている『ワンダヴィジョン』や『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に熱狂している。自分自身を顧みても、ハリウッド映画の公開延期が続いているとはいえ、「見たい作品がない」みたいな飢餓感とはまったく無縁の日常をパンデミックに入ってからも送り続けている(むしろ、相変わらず見たい作品が多すぎて、いくらあっても時間が足りない)。

 「イベント化」する映画興行と、なかなか戻ってこない「日常」。いや、そもそも熱心な映画ファンにとっての「日常」であった映画館通いが、今回のパンデミックによって、常に供給過多の状態にある配信作品の視聴生活へと着々とシフトしているのではないだろうか? 何度かのピークを繰り返しながら一向に減少へと向かわない日本国内の感染者数のグラフを眺めていると、ついそんなことを考えてしまう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『名探偵コナン 緋色の弾丸』
4月16日(金)全国東宝系にて公開
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:永岡智佳
脚本:櫻井武晴
音楽:大野克夫
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、池田秀一ほか
スペシャルゲスト:浜辺美波
主題歌:東京事変「永遠の不在証明」
配給:東宝 
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント 
(c)2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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