赤井秀一は劇場版でこそ輝く 『名探偵コナン 異次元の狙撃手』は最新作予習に打ってつけ

 本作において、このベルツリータワーはあくまでも架空の施設として描かれるが、そのすぐ近くに広がる街並みは実在の浅草の街並みが丁寧に再現されている。位置関係もしかり、隅田川を渡る東武スカイツリーライン(劇中では東都ベルツリーライン)の河川橋梁など、現実とフィクションが巧みに交わり合うだけでなく、それらが犯行のトリックに用いられるあたりはなかなかに秀逸だ。単にシンボリックな建造物が事件の発端とクライマックスを飾る場所としてのみ機能するのではなく、その周囲で頻発する事件を俯瞰して見つめる役割として物語に関与していく。ある意味では、コナン映画ではそれほど多くない“ご当地映画”としてのニュアンスも感じることができよう。

 さて、本作が公開されたタイミングでは、まだ沖矢昴というキャラクターの正体は原作でもテレビアニメ版でも明らかにされていなかったわけだが、沖矢=赤井秀一であるということがこの作品のクライマックスで、実にさりげない方法で明かされる(これはネタバレになるのではと心配ではあるが、7年も前の映画だからご容赦願いたい)。本作でそれを描き、この2年後に公開される『名探偵コナン 純黒の悪夢』では安室透とともに劇場版に本格的に登場。そして近年の2作では安室と怪盗キッドといった人気キャラクターがそれぞれフィーチャーされてきただけに、最新作で赤井にスポットライトが当てられるというのも必然の流れだ。

 本作の劇中、FBIの同僚であるジョディ・スターリングの回想シーンで登場した赤井は、一瞬で相手の動きを止めるための精密な狙撃について語り、さらに不可能に近い遠距離の狙撃を見事に成功させる。このように、わずかな登場シーンだけでも作品の良いところを全部さらっていく赤井というキャラクターはスケールの大きい劇場版でこそ輝くキャラクターであろう。彼がキーパーソンとなる最新作、これは1年のお預けによって高まった期待感を大きく上回るものになっているのではないだろうか。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
『名探偵コナン 異次元の狙撃手』
日本テレビ系にて、4月16日(金)21:00~22:54放送
原作:青山剛昌(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:静野孔文
脚本:古内一成
音楽:大野克夫
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平、林原めぐみ、日高のり子、池田秀一、置鮎龍太郎、福士蒼汰
(c)2014 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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