『殴り愛、炎』拳で語る姿が生むドラマツルギー 鈴木おさむイズムがエスカレートした後編

『殴り愛』拳で語る姿が生むドラマツルギー

 殴り合いで決着をつける懐かしい作風は、かつての名作ドラマ・映画に対する鈴木流のオマージュだろう。道ならぬ純愛を貫く2人に対して、擁護される側の人々が狂態をさらすという反転した構造は、王道ドラマに対する本作のイレギュラーな立ち位置を示している。『奪い愛』シリーズや『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)に、『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)や『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』(NHK総合)と同じ匂いを感じるのは、芝居がかったコント要素もさることながら、人間のリアルな部分を掘り下げる着眼点ゆえではないか。

 『殴り愛、炎』を含む『奪い愛』シリーズは、鈴木がやりたいことのコアに近い作品なのだと思う。独特な脚色と力技による展開は一種の照れ隠しで、本音では汲めども尽きないドラマへの愛情が流れている。『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)でゾンビ映画のアーカイヴを踏まえながらこれまでにない作品を創ろうとしたように、テレビの作り手としての自負あるいは子どものような純粋な好奇心が、深夜枠の冒険をもたらしている。

 強烈なサービス精神のため誤解されることもある鈴木おさむが、テレビドラマというフォーマットの可能性を今も追求しているという事実は、本作の光男の姿と重なり合う。常軌を逸した愛が献身や利他的な行為と表裏一体であること。無垢なヒロインは視聴者で、切り裂かれた芸術家の肖像と報われない思いに苦しむエリートは作り手の二面性を暗示する。それら全てをひっくるめて「ここにいるよー!」と自らの存在を知らせる時、倒錯した愛情はエンターテインメントに変わるのだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■作品情報
『殴り愛、炎』
出演:山崎育三郎、瀧本美織、酒井若菜、永井大、市原隼人
脚本:鈴木おさむ
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:川島誠史(テレビ朝日)、菊池誠(アズバーズ)
演出:樹下直美
制作協力:アズバーズ
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日

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