『ゴジラvsコング』全米大ヒットがもたらした「いいニュース」と「悪いニュース」

文＝宇野維正

　一方、アメリカではそのHBO Maxで劇場公開と同時配信されている『ゴジラvsコング』（日本では東宝の配給で5月14日公開）が、関係者の予想を大きく超える興行成績を記録して話題となっている。ロサンゼルスやニューヨークなどの大都市では1年以上に及んだ劇場閉鎖を経て、ようやく文字通り「全米」の2409館で公開された同作は初日興収960万ドル（約10億円）、オープニング5日間で4850万ドル(約54億円）を叩き出す大ヒットに。同時に、HBO Maxでも最初の5日間で360万人の視聴者を獲得。これは『ワンダーウーマン 1984』の220万人、『ジャスティス・リーグ：ザック・スナイダーカット』の180万人を超える過去最多のペースとのことだ（参考：https://deadline.com/2021/04/godzilla-vs-kong-hbo-max-viewers-weekend-box-office-1234727926/）。

　この事実は二つのことを示している。一つは、強い作品が公開されれば劇場に観客は戻ってくるということ（もちろん、どこかの後進国と違ってワクチン接種がそれなりに進んでいることも影響しているだろう）。もう一つは、強い作品ならば劇場公開と同時に配信されても興行に及ぼす影響は限定的であるということ。前者に関しては映画興行的には「いいニュース」だが、後者に関しては、ワーナー＆HBO Maxの方針が来年以降も維持されることに繋がる「悪いニュース」かもしれない。ただ、一部報道（参考：https://observer.com/2021/04/hbo-max-dune-box-office-godzilla-vs-kong-warner-bros-legendary/）によると、今回の『ゴジラvsコング』の成功によって製作のレジェンダリー・ピクチャーズの発言力が増したこともあって、10月1日全米公開＆配信予定のドゥニ・ヴィルヌーヴ作品『DUNE／デューン砂の惑星』は、アメリカでも劇場公開が優先される可能性が高まっているとのこと。いずれにせよ、ハリウッド・メジャー＆大手ストリーミングサービスにとって、2021年は試行錯誤が続く「実験の年」となる。

　最新の情報としては、日本時間の本日未明、Netflixとソニーが2022年以降の劇場作品について4年間10億ドルの独占ライセンス契約を締結したというビッグニュースが入ってきた（参考：https://deadline.com/2021/04/netflix-sony-pictures-licensing-deal-streaming-starz-spider-man-1234730124/）。これは、ソニー作品の劇場公開後、一定の期間（ウィンドウ）を置いて、Netflixが18ヶ月間独占配信の権利を有するというもの。日本のNetflixがこの契約に準じることになるかどうかはまだ不明だが、これでアメリカでは「スパイダーマン以外のマーベルのディズニープラス」、「DCのHBO Max」、「スパイダーマン及びスパイダーマン関連キャラクターのNetflix」と、3大スーパーヒーロー・コンテンツが大手ストリーミング・サービス3社によって棲み分けられることになった。現在のディズニープラスの破竹の勢いを見ると、ここでNetflixが手を打たないわけにはいかなかったのだろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』（新潮社）、『くるりのこと』（新潮社）、『小沢健二の帰還』（岩波書店）、『日本代表とMr.Children』（ソル・メディア）。最新刊『2010s』（新潮社）発売中。Twitter

■公開情報
『ゴジラvsコング』
5月14日（金）全国公開
出演：アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬、エイザ・ゴンザレス、ジュリアン・デニソン、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチル
監督：アダム・ウィンガード
脚本：エリック・ピアソン　マックス・ボレンスタイン
製作：レジェンダリーピクチャーズ　ワーナーブラザース
配給：東宝
(c)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.