『おちょやん』『エール』『まんぷく』 朝ドラヒロインたちが向き合ってきた戦争

朝ドラヒロインたちが向き合ってきた戦争

 戦争と音楽について描いた朝ドラといえば、2006年放送の『純情きらり』もある。ヒロインの桜子(宮崎あおい)がジャズピアノをやっていたため戦争中に自由に弾けなくなり、夫も出征したため八丁味噌の老舗の留守を預かることになる。桜子は1920年生まれだが、『とと姉ちゃん』のヒロイン常子(高畑充希)も『まんぷく』のヒロイン福子(安藤さくら)も1920年生まれの同い年。

 『とと姉ちゃん』は戦前と戦後ではっきりと構成が分かれており、父親を11歳のときに亡くした常子が父親代わりに母や妹2人を守っていたが、戦後になって妹たちと雑誌作りに奮闘する物語。常子の妹、美子を杉咲花が好演していたのも記憶に新しい。

 『まんぷく』では、戦況が悪化した大阪から萬平(長谷川博己)の親戚を頼り、福子と萬平、福子の母・鈴(松坂慶子)が疎開する場面が描かれた。萬平は憲兵によって拷問を受けた後遺症で徴兵を免れ、疎開先で赤紙が届くが、腹膜炎を発症したため戦地に赴くことはなかった。『おちょやん』の福助や百久利(坂口涼太郎)のように出征するのはつらいが、残される側の苦しい心情もまた描かれてきた。

 国のために役立てないと自分の不甲斐なさに憤りを感じる萬平に対して福子は「戦争に行かなくとも、お国の役に立てることはきっとあります。私は萬平さんには生きていてほしい。誰に何と言われようとあなたには生きていてほしいの!」とキッパリ言う。戦争のような価値観を揺さぶる大きな出来事の前で大切なものを奪われそうなときに、福子は強さを発揮するヒロインだった。

 『おちょやん』では次週、焼け野原となった大阪が描かれる。みんなの幸せが千代にとっての幸せであり、悲惨な戦争と向き合わなければならない状況の中、千代はどう生きる道を探るのだろうか。人と人とのつながりの強さが戦争によって再確認できた第85話に続き、千代にとっての新たな試練が降りかかろうとしている。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる