マンハッタンの緊急事態をサスペンスフルに描く 『21ブリッジ』で辿る様々な犯罪映画の記憶

『21ブリッジ』で辿る様々な犯罪映画の記憶

 そして同時に描かれるのが、犯人側の物語だ。警察の捜査の手が迫るなか、犯人の一人で、冷静な判断力を持ったマイケルは、犯人の逃亡劇『ラン・オールナイト』(2015年)や、『グッド・タイム』(2017年)のように、ニューヨークの夜の街を駆け抜ける、必死の逃亡を続ける。そんなマイケルは、強盗に入った場所で起きた出来事や、自分を追う警察の動きに違和感を覚えていた。それはアンドレ刑事も同様で、彼らは敵対的な関係にありながら、事件の裏に潜んでいる、さらに大きな闇と、それぞれ対峙することになるのだ。

 アンドレとマイケルとの関係は、『交渉人』(1998年)のように、犯人とネゴシエーターとの、生死が目の前にありながらお互いに必要な情報を提供し合う、ギリギリの交渉が行われる。そして、ついに明かされる事件の真相と、リアリティに溢れた迫力あるアクションが、本作最大の見どころとなっている。

 このように、本作は描かれる要素が次々に移り変わっていくところが特徴だが、それを一つに繋げているのが、やはりチャドウィック・ボーズマンが演じる主人公アンドレの存在である。彼は、幼い頃に警察官の父親が殉職し、自らも悪と戦うために警察で働くことを志した人物だ。そんな揺るがない正義を持っているがゆえに、デイビスは事件の真相に到達し、真の悪と戦うこととなるのだ。

 現実のアメリカの警察といえば、アフリカ系住民への発砲事件が多発したことで、最近も大規模な抗議運動に発展しているように、近年はネガティブなイメージがまとわりついているところがあり、「警察を解体せよ」という声まで挙がっている。そんな状況下で、市民たちはいったい何を頼りにすればよいのか……。だがボーズマンは、スクリーンの中で、これまで彼が演じてきたように、またしても正しい生き方や信念を表現してくれている。本作の彼の演技に秘められているのは、“アメリカの夜の闇に光を当てるのは、一人ひとりが心に持つ正義の炎なのだ”というメッセージであるかのようだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『21ブリッジ』
4⽉9⽇(金)全国ロードショー
監督:ブライアン・カーク
脚本:アダム・マーヴィス、マシュー・マイケル・カーナハン
製作:ジョー・ルッソ、アンソニー・ルッソ
出演:チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズほか
配給:ショウゲート
2019/中国・アメリカ/99分/原題:21 Bridges
(c)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:21bridges.jp
公式Twitter:@21bridges_jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/21Bridgesmoviejp

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