予想大外れ、興収100億に届きそうにない『シン・エヴァ』 反省しつつその理由を分析

 順位だけを見れば、確かに『シン・エヴァ』は新たな「一極集中」作品であることは間違いない。3週間で60億円超えというのも、前作の最終興収が53億円だったことを考えれば、順調なペースに見えるだろう。しかし、初週約33億円、2週目約16億円、3週目約11億円という成績は、少々肩透かしと言わざるを得ない。このままのペースだと最終興収は85億円〜95億円といったところか。もちろんそれでも大ヒットではあるのだが、「社会現象」と言うにはどうにも物足りない。

 今から15年前の2006年9月28日。今回の「新劇場版」の製作発表のタイミングで、庵野秀明は「我々は再び、何を作ろうとしているのか?」というタイトルの所信表明文を発表した。そこには、次のような一文があった。「本来アニメーションを支えるファン層であるべき中高生のアニメ離れが加速していく中、彼らに向けた作品が必要だと感じます。現状のアニメーションの役に少しでも立ちたいと考え、再びこのタイトル作品に触れることを決心しました」。15年前の中高生は、今ではもう20代後半から30代半ばだ(当初、「新劇場版」は数年以内に完結する予定のプロジェクトだった)。確かに、テレビシリーズや旧劇場版の次世代となるその世代には届いたかもしれない。しかし、2021年の中高生はそもそも、もうまったく「アニメ離れ」などしていない。この15年で世の中は大きく変わったのだ。

 公開前ならまだわかるが公開されてからも、作品のビジュアルのメディアへの貸し出しを極端に制限してきたこと。そんなカラーの姿勢も慮ってか、初週に駆けつけた観客が極端にスポイラー(ネタバレ)を避けてきたこと。また、公開3週目に入っても(あまり聞き慣れない言葉の「追告」映像などを含む)情報の流れが製作サイドから一方通行であり続けていること。そうしたコントロール・フリーク的なプロモーション戦略が、ソーシャルメディアにおけるユーザー側の情報発信が最も力を持つ現在において時代遅れであったことも指摘しておきたい。

 「その前の3本を見なくちゃ話わからないんでしょ?」。これは、『シン・エヴァ』がとても良かったので一緒に観に行こうと、この春に中学生になる息子を映画館に誘った時に実際に返ってきた、つれない返事だ。確かに、前作から8年以上のインターバルがあって、さらにそれが4作目となると、新規の観客にとってはかなりハードルが高い。公開直前の公開再延期によって民放での過去作の放送とうまく連動できなかったという不運はあったものの、『シン・エヴァ』の極端に管理された「上から」のプロモーション戦略は、そのハードルをさらに上げることはあっても、下げる方向には機能しなかった。

 しかし、結局のところ『シン・エヴァ』がそこまで跳ねなかった最大の理由は、自分が深く感動した同作のエンディングの先に広がっていたアニメとリアルワールドが融和した「世界」を、もうとっくに今の中高生は生きているからなのかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
音楽:鷺巣詩郎
制作:スタジオカラー
配給:東宝、東映、カラー
上映時間:2時間35分
(c)カラー
公式サイト:http://www.evangelion.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/evangelion_co

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