『奥様は、取り扱い注意』『あな番』ーー劇場版ブーム再燃! ドラマと映画の関係は“変革期”に

『奥様は~』『あな番』“劇場版”増加のワケ

 ところがそれは、テレビ局出資の映画がその後陥る悪しき習慣を生み出してしまう結果となる。映画の出資をテレビ局が行うことが主流となり、テレビスケールの作品を「流行った」という一点に乗じて映画へと持ち込んでしまう。またオリジナルの映画ですらテレビスケールのものになってしまったり、劇場公開からスパンをあけずにテレビ放送することが当たり前となってしまったり、ドラマの進化にも映画の進化にも繋がらず、たださまざまな弊害が生まれてしまう。さらに「劇場版」の頻発は、日本映画界のネタ切れを危惧する声を強めることとなってしまう。しかも2000年代中頃には、映画で成功した『世界の中心で、愛を叫ぶ』や『電車男』などを、逆にテレビドラマにリメイクする風潮が見られはじめ、尺的な違いでそちらの方が後々高い評価を得てしまったりと、映画の立場から見たらなんとも踏んだり蹴ったりである。

 2000年台に製作された「劇場版」のほとんどは、ドラマ版で一度完結したストーリーの“その後”を描くものばかりだった。それこそ『踊る〜』のように、ドラマ版の時点で各エピソードが独立した事件を描くタイプの作品は格好の「劇場版」向けであり、事件の規模が大きくなればたちまち「劇場版」仕様になってくれるのである。『ケイゾク』『トリック』『HERO』あたりが良い例だ。また一方で、『GTO』のように主人公が別の高校に赴任するという完全なスペシャルドラマ版向けストーリーが展開することもあったわけで、そうなればどうしたって「劇場版」である意味を見失った、お祭りごとに過ぎなくなってしまう。そういった作品が物珍しく思える時期までは楽しいが、しょっちゅうお祭りが行われているというのもなかなかツラい話だ。

 ここで一旦話は90年代前半に遡るが、92年に『パ★テ★オ』という作品が製作され、これはテレビドラマで放送したのち、結末を映画で見せるという完全連動タイプの作品だった。2004年公開の映画が成功し、翌年にテレビドラマとして続編、さらに翌年から映画シリーズとして大規模に展開していった『海猿』はこの連動タイプを活かし、かつ『踊る〜』が提言した「映画だからこそできるスケール」を余すところなく体現した作品であった。また2008年には、テレビドラマ放送期間中に映画が公開され、物語の完結はテレビドラマの終盤に託すというイレギュラーな方法をとる『赤い糸』が登場する。

 ちょうど『踊る〜』から10年を迎えた2008年は、「劇場版」ムーブメントにおいて重要な年である。すでに国民的ドラマシリーズとして定着していた『相棒』の最初の劇場版が5月に公開され、派生するようにして「少女漫画原作映画」という新たな潮流に火を点ける『花より男子』が6月に、そして10月には「劇場版」と「直木賞受賞作の映画化」という両方を併せ持つことで、このブームに箔を付ける『ガリレオ』の劇場版が公開される。もちろん翌年に『ROOKIES』や『のだめカンタービレ』など、的確に狙いに来た作品が現れヒットするわけだが、この頃からある種のムーブメントとしての勢いは落ち着きを見せ始め、同時に数年前のような危惧も拒否反応も小さくなっていった。

 おそらくそれは、『海猿』のようにテレビドラマの時点で映画を見据えていた作品が増え、その分クオリティそのものが向上したからと好意的に考えることができる。つまり『踊る〜』の成功の時に期待されたことが、10年経ってようやく叶ったというわけだ。2007年にドラマ版が放送され、2010年に劇場版が公開された『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)はその代表的な例で、深夜ドラマながら毎回見応えのあるアクションシーンと抑え目のルックは、日本のドラマの可能性を感じさせてくれた。さらに2014年にドラマ1期がTBSで、直後に2期がWOWOWで放送され、翌年に劇場版で完結した『MOZU』もしかり。テレビドラマで盛り上げられるところまで盛り上げ、「ドラマ版では描ききれなかった」ものをしっかりと映画スケールの「劇場版」として提示する。同じ時期にはついに「月9」の『信長協奏曲』(フジテレビ系)までもが、結末を劇場版で描くという荒技に打って出て、スケールの拡張に成功するのである。

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