『おんな城主 直虎』と重なった『天国と地獄』 森下佳子が高橋一生を通して描いた希望

森下佳子が高橋一生を通して描いた希望

 是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した時、審査委員長のケイト・ブランシェットが「インビジブルピープル(見えない人々)」という言葉を使ってその年の映画祭の作品群を総括した。『万引き家族』もまた「見えない/見ないふりをされている家族」の物語だった。昨年放送された『MIU404』(TBS系)において脚本の野木亜紀子が光を当てたのも「Not found(存在しない)」とされた人々の物語だ。『天国と地獄』もまた、「そんな人はいないよ」という「クウシュウゴウ(∅)」を名乗る東朔也(迫田孝也)を通して「インビジブルピープル」を描いた。

 一連の事件は、「たった15分先に生まれただけで」運命が天と地ほどに変わってしまった、日高と生き別れの兄弟である東によるものだった。東は、ただ真っ当に生きていただけなのに悉く社会から弾かれ、奪われ続けた人生の末に、死を前に「この世の掃除」をしていこうと、自分から何かを奪った人々を一人ずつ殺していった。

 そんな彼に対し、「新月(「朔也」の朔は「新月」の意味を持つ)は見えない時もあるけれどずっとそこにあるから、いるのにいない、なんてない」と感じる彩子。そして、生きている東と対面することは叶わなかった河原(北村一輝)が、東の犯罪から聞こえる、「立場の弱い人間がいかにたやすく奪われ続けるか」という「声」を掬い上げ、代弁し、守り抜くのもまた、大きな救いであった。

 日高は一貫して彩子を「元の生活のままの状態」に戻してやりたかったのだろう。陸(柄本佑)が彩子の部屋にいて、彩子は変わらず刑事を続ける。それが「あるべき姿」だと思っていた。だが、互いを思いあう日高と彩子の2人を目の当たりにした陸は、「いつかは破れる運命」のサンドバックに自らを例え(第5話)、去っていく。彩子は警察学校に異動になり、それは予想以上に彼女の肌に合っていた。それもまた、「あるべき姿」だったのである。

 彩子が探し回っていた「シヤカナローの花」はずっと傍にあった。凶器となった「呪いの石」の底に。「呪いの石」は「お守りの石」であり、日高と東、2人の母(徳永えり)の願いが籠もった石だった。

 本作は運命に翻弄される人々の物語だ。謎を解く鍵はどこにあるのか、「あるべき姿」とは何かを模索し続ける人々の物語。神様の気まぐれか、はたまた母の願いか、「入れ替わり」に翻弄された日高、彩子、東という3人の「サイコパス(共感性の欠如という意味で本作では使われていた)」は、自分以外の世界を知った。自分と同じぐらい大切な他人を知った。まるで自分のことのように、自分のことを思っている他人の存在を知った。それだけで世界は簡単に変わる。変えられる。

 想像すること、変化を受け入れることもまた、「あるべき姿」を見つけるための一つの手段だ。これは、この混沌とした「今」を生きるための大きなヒントなのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
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■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
Paraviにて全話配信中
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

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