野島伸司はアニメに向いている脚本家? 『ワンエグ』が描き出す、思春期の美しさと脆さ

 しかも、この作品の大きな特徴は、「少女(しかもおそらく14歳の)しか登場しない世界」だということ。「目的脳」である男子の自殺と違い、「感情脳」の女子の自殺の場合、「死の誘惑にのまれる」ことがあるというのだ。

 『お兄ちゃん、ガチャ』的世界かと冒頭だけ思ったが、むしろ男子校を描いた『人間・失格』の世界観のほうが近いではないか。

 しかも、最初は美しい絵柄によって、野島伸司のエグい世界観がポップで見やすくなるのだろうかと思ったが、それはむしろ逆。美しくポップな絵柄だからこそ、思春期特有の少女たちが抱える心の闇や、人間関係で起こる摩擦、生々しく醜い感情や、「大人」という生きもののグロテスクさが、終わらない悪夢のように空恐ろしい不気味さを持って迫ってくるのである。そして、畳みかけてくるうつ展開の中で、少女たちの心が次第に近づき、手を携えて共有する、刹那の明るく楽しい時間の美しいこと、むごいこと。

 まるで連ドラではコンプライアンスの問題や予算の都合により、もはや自由に描けなくなってしまった野島伸司の想像力・妄想力・想像力・創造力の鎖を切って、自由に羽ばたかせるのが、アニメという媒体であるかのようだ。

 さらに驚かされるのは、SNSを見る限り、従来の野島伸司ファンだけでなく、というよりむしろ野島伸司ワールドを知らない10~20代の若いアニメファンがズブズブとその世界観にハマり、魅了されているということ。

 なぜ90年代から2021年の今まで30年近くもの間、全く古びることなく、時代時代に応じた「思春期の美しさと脆さ、危うさ」を描き続けられるのか。そして、思春期の真っただ中の世代から中高年までの心を震わせることができるのか。まるで野島伸司自身が「思春期」の中に冷凍保存されている、あるいは「思春期」というパラレルワールドを永遠にループし続けているんじゃないかと思えるほどの秀作なのだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ』
日本テレビほかにて、毎週火曜深夜放送
原案・脚本:野島伸司
監督:若林信
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃
企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ)、中山信宏(アニプレックス)
制作:CloverWorks
(c)WEP PROJECT
公式サイト:https://wonder-egg-priority.com/
公式Twitter:WEP_anime(https://twitter.com/wep_anime)

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