『ミナリ』と『ノマドランド』が一騎打ち!? 第93回アカデミー賞受賞結果を大予想

第93回アカデミー賞受賞結果を大予想

★が本命、●が次点

主演女優賞

キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』(c)2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.

ヴィオラ・デイヴィス『マ・レイニーのブラックボトム』
アンドラ・デイ『The United States vs. Billie Holiday(原題)』
ヴァネッサ・カービー『私というパズル』
●フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』
★キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』

 性暴力被害者の復讐をサスペンス・コメディに昇華させたキャリー・マリガンの熱演は一世一代のもの。前回ノミネートの『17歳の肖像』(2009年)からコンスタントに良作に出演し続けているところも評価されそう。フランシス・マクドーマンドは『ファーゴ』(1996年)、『スリー・ビルボード』(2017年)で主演女優賞を受賞しているが、『ノマドランド』でのフィクションとノンフィクションの間で“聴き手”に徹し物語の輪郭を描く演技は、新しい演技手法を生み出したと言っていい。

助演女優賞

ユン・ヨジョン『ミナリ』Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

マリア・バカローヴァ『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』
グレン・クローズ『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』
オリヴィア・コールマン『ファーザー』
●アマンダ・セイフライド『Mank/マンク』
★ユン・ヨジョン『ミナリ』

 全移民が「俺の家の話だ」と涙する『ミナリ』の肝となる、おばあちゃんの存在。昨年のポン・ジュノ監督同様、アメリカでのプロモーションを流暢な英語でこなし、ジョークを交えながらウィットに富んだ受け答えをするユン・ヨジョンに世間は夢中だ。対抗のアマンダ・セイフライドは、ノミネート数は多いが受賞確率の低そうな『Mank/マンク』の希望を託すとしたらこの部門しかない。最有力と言われながら最後の最後に梯子を外された前回の『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年)のショックも記憶に新しいグレン・クローズだが、8回目のノミネートも残念な結果になりそう…。

主演男優賞

チャドウィック・ボーズマン『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて配信中

リズ・アーメッド『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
★チャドウィック・ボーズマン『マ・レイニーのブラックボトム』
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』
ゲイリー・オールドマン『Mank/マンク』
スティーヴン・ユァン『ミナリ』

 昨年8月に逝去したチャドウィック・ボーズマンのキャリアを、『ブラックパンサー』で果たせなかった主演男優賞受賞という形で祝福することになるだろう。故人が演技部門でノミネートされるのはジェームズ・ディーンなど過去に7名で、故ヒース・レジャーは『ダークナイト』(2008年)で助演男優賞を受賞している。アジア系初ノミネートのスティーヴン・ユァンとリズ・アーメッドには、この先人種にこだわらない良役が多く巡ってくるのはずなので、今後に期待。

助演男優賞

●サシャ・バロン・コーエン『シカゴ7裁判』
★ダニエル・カルーヤ『Judas and the Black Messiah(原題)』
レスリー・オドム・Jr.『あの夜、マイアミで』
ポール・レイシー『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
ラキース・スタンフィールド『Judas and the Black Messiah(原題)』

 授賞式の最初に授与される賞で、最も予想が難しいのが助演男優賞。正直なところ『Judas and the Black Messiah(原題)』はそこまで優れた作品と言えないのだが、2020年のBLM運動から今年の多様性に溢れたノミネーションを考慮すると、ダニエル・カルーヤに受賞の光明が。ただし、同作品から2人ノミネートされているので、票が分散しないようアワード・パブリシストの腕の見せどころ。昨年11月の大統領選直前配信の『シカゴ7裁判』と『ボラット2』という両極端の2作品から発せられた「選挙に行け!」という強いメッセージに対し、サシャ・バロン・コーエンを推すこともできる。

長編ドキュメンタリー賞

『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』Netflixにて配信中

『Collective(原題)』
『ハンディキャップ・キャンプ:障がい者運動の夜明け』
『The Mole Agent(原題)』
★『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』
●『タイム』

 過去のアカデミー賞では政治的な作品が受賞する傾向があったこの部門だが、他の部門に政治性が絡んできているために、ねじれが生じる可能性がある。この中でも純粋に映像で魅せ、驚かせ、学びを与えてくれるNetflixの『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』が本命。アマゾン・プライムで配信されている『タイム』は、軽犯罪ながら長期収監となった黒人夫婦の愛と信頼の記録によって、法執行機関による非人道的な権力行使を暴く。『ハンディキャップ・キャンプ』はオバマ元大統領の製作会社とNetflixが組んだ第2作目で、昨年『アメリカン・ファクトリー』で受賞しているため今年は難しいだろう。

長編アニメーション部門

『ソウルフル・ワールド』(c)2021 Disney/Pixar.

『2分の1の魔法』
『フェイフェイと月の冒険』
『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』
★『ソウルフル・ワールド』
●『ウルフウォーカー』

 もし『ウルフウォーカー』が受賞するとApple TV+は賞レース初参戦で初ノミネート、初受賞となる。ただし、評価も下馬評も『ソウルフル・ワールド』が圧倒的なので5作品に残っただけでも大金星と言える。

国際長編映画賞

『アナザーラウンド』(c)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

★『アナザーラウンド』(デンマーク)
『Better Days(英題)』(香港)
『Collective(原題)』(ルーマニア)
『The Man Who Sold His Skin(英題)』(チュニジア)
『Quo Vadis, Aida?(原題)』(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

 デンマークのトマス・ヴィンターベアが強豪揃いの監督賞にもノミネートされるという快挙。一昨年の『ROMA/ローマ』、昨年の『パラサイト』共に「作品賞へのアップグレードがあるとすると…」を含めて予想されていたが、今年はシンプルに『アナザーラウンド』の圧勝だろう。ルーマニアのナイトクラブ火災から政治腐敗に結びつく調査報道のドキュメンタリー『Collective』が2部門でノミネートされているのは快挙。

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