『ワンダーエッグ・プライオリティ』に散りばめられた謎 野島伸司は“社会の闇”を描く

至るところに散りばめられた謎

 主人公や登場人物の成長はもちろんだが、『ワンダーエッグ・プライオリティ』には他にも注目してほしい見どころがたくさんある。

 まず、エッグ世界でアイたちが戦う敵だ。ミテミヌフリの他に、ワンダーキラーと呼ばれる敵も出現する。このワンダーキラーはエッグの中の少女のトラウマ的存在が反映される。

 第2話では、エッグの中の少女・南の部活の顧問がワンダーキラーとなってあらわれる。モラルハラスメントと捉えられるほどの過度な指導、それにより自己肯定感を失っていく少女。これは、現実世界にも存在するリアルな問題だ。学校はもちろん、職場や夫婦間など様々な場所において起こり得る。

 エッグの中の少女を襲うミテミヌフリも、物語の中盤から「アンチ」という存在に変わり、攻撃の標的をエッグの中の少女ではなくアイたちに向けるようになる。アンチは、エッグ世界で活躍するアイたちに嫉妬し、ミテミヌフリが生まれ変わった姿だ。これまで自分には害のなかった存在が、急に危害を加えるようになる。こういった敵の存在や変化も、野島ワールドの見どころといえるだろう。

 そしてアイの担任の先生・沢木にも注目だ。不登校のアイの様子を見によく家庭訪問をしてくれる優しい先生であり、整った見た目から生徒からの人気も高い。エッグを持つ少女の1人・沢木桃恵は沢木の姪という設定であり、物語に深く関わってくる立ち位置にいる。とはいえ、まだ明確にキャラクターが描かれておらず、物語の謎を深める存在となっている。今後、沢木がどのような影響を及ぼすのかにも注目したい。

 他にも考察点が多くあり、主人公のアイはなぜオッドアイなのか、アイをエッグに導いたのはなぜ黄金虫なのか、武器となる4色ボールペンと4人のエッグを持つ少女たちに関連性はあるのかなど、考えれば考えるほど深みが出る作品となっている。OPが卒業式で定番の曲「巣立ちの歌」なのも、物語のエンディングを示唆するメッセージなのかもしれない。

タイトルに込められた想い

 『ワンダーエッグ・プライオリティ』という不思議なタイトル。「プライオリティ=優先」。では、「ワンダーエッグ」とは何を指すのだろうか。

 エッグの中には少女が入っており、その少女はアイたちと同じ年頃の女の子だ。そしてこの少女たちは、いわゆる「死の誘惑」に惑わされ、死んでしまった少女たち。どこかの誰かの友達だった存在だ。「エッグ=友達」と解釈すると、「友達の優先順位」という意味になる。

 毎話新しいエッグを割り、新たな友達と出会っていくアイたち。エッグの中の少女たちを守っていく中で、自分にとって何が大切なのか、大切にすべきものの順位はなんなのかを考える場面が数多く描かれる。

 様々な社会の闇をテーマに、作品を通して視聴者や社会に問題提起をしてきた野島伸司。『ワンダーエッグ・プライオリティ』も最終話まであと少し。物語はどんな優先順位で決着がつくのか。

■阿部仁美
サブカルとエンタメと珈琲を偏愛するフリーライター時々ベンチャー企業の中の人。
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■放送情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ』
日本テレビほかにて、毎週火曜深夜放送
原案・脚本:野島伸司
監督:若林信
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃
企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ)、中山信宏(アニプレックス)
制作:CloverWorks
(c)WEP PROJECT
公式サイト:https://wonder-egg-priority.com/
公式Twitter:WEP_anime(https://twitter.com/wep_anime)

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