野村萬斎と鈴木京香のロマンチックな演出も 『死との約束』で展開された三谷幸喜ワールド

『死との約束』で繰り広げられた三谷ワールド

 加えて、勝呂に淡いロマンスも訪れる。上杉がミステリアスな魅力を放ちモーションをかける様子は、勝呂の新鮮な表情を引き出す。今回の事件には恋愛における駆け引きが絡んだこともあり、勝呂と上杉の“男女の駆け引き”にも注目が集まった。実は事件にも大きく関係するこのやりとりこそ、ドラマ版『死との約束』の最たる見どころだったのではないだろうか。勝呂がとある理由から“記念になる物”をねだるシーンでは、上杉が勝呂の頬にキスをするなどロマンチックで粋な演出も。ラストにじんわり滲む勝呂の瞳こそが、彼の本心だったのではないだろうか。

 泡沫の恋に思い馳せる勝呂の表情が美しい余韻を生んだ恋物語だが、実は原作の小説には恋愛描写は記されていない。だが、今回の上杉によく似たキャラクターはクリスティーの短編集『教会で死んだ男』に収録される『二重の手がかり』に登場しており、こちらの内容がオマージュされていると思われる。

 こうして原作とは異なる視点で新たに生まれ変わった『死との約束』。萬斎の演じる勝呂の独特な佇まいが頭から離れなくなった今、今後も“日本のポアロ”としてシリーズ化を続けてほしい。また新たな事件で勝呂と再会できるときを楽しみにしたい。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
スペシャルドラマ土曜プレミアム『死との約束』
出演:野村萬斎、松坂慶子、山本耕史、シルビア・グラブ、市原隼人、堀田真由、原菜乃華、比嘉愛未、坪倉由幸(我が家)、長野里美、阿南健治、鈴木京香 ほか
原作:アガサ・クリスティー『死との約束』
脚本:三谷幸喜
プロデューサー:渡辺恒也、高丸雅隆(共同テレビ)
演出:城宝秀則(共同テレビ)
制作協力:共同テレビ
制作著作:フジテレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp//yakusoku/

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