ザック・スナイダーはなぜ万人ウケしないのか 『ジャスティス・リーグ』の熱狂から探る

ザック・スナイダー、なぜ万人ウケしない?

ザック・スナイダー監督作がネタ化してしまう理由とは

 魅せるテクニックはありつつも、スナイダー監督の作品やテイストがネタのように扱われてしまったり、万人ウケしにくいのは、ストーリーの起承転結が明瞭とは言いにくく、また冗長だからではないでしょうか。ショットやシーケンス単位では非の打ち所がないにも関わらず、 1本の映画となるとボヤけてしまうのです。

 加え、キャラクターアークを丁寧に説明する側、ストーリードリヴンに必要なキャラクターのモチベーションが観客に伝わりにくいという難点もあります。

 こうしたことによって、物語を楽しむ映画というより、細部にこだわった2時間超えのプロモーションビデオのようになってしまっていることが多々あるのです。

 また、スナイダー映画のネタ化を語る上で、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の「マーサ」を無視することはできません。スーパーマンを人類の脅威とみなし、殺すことを心に誓ったバットマンですが、ふたりの母親の名前が偶然にも「マーサ」であることを知り、あっという間に和解するという、デウスエクスマキナも驚きのご都合主義展開です。

 殺意が一瞬にして失せ、良き友人になってしまったバットマンとスーパーマン。のちにスナイダー監督は、あのセリフには、スーパーマンも自分と同じ人の子で、誰かに愛され育てられてきた背景をバットマンに瞬時に理解させる力が込められていたと説明していますが、それにしても「母親の名前が一緒」という事実が、殺意を沈めるほどのモチベーションになりうるのかが議論の的となり、ザック監督にDCEUを牽引する能力があるのかどうか疑問視されることとなりました。

ではザック・スナイダー版『ジャスティス・リーグ』がなぜ期待されているのか

 満を辞して公開されたトレイラーからみる『スナイダー・カット』は、『300』やザック監督によるDCシリーズ同様、神話的重厚感が万歳で、ジョス・ウェドン監督による『ジャスティス・リーグ』よりもダークになっているのは明白です。

 スーパーマンの長年の宿敵であるダークサイドや、フラッシュの恋人であるアイリス、マーシャン・マンハンターが登場するだけでなく、2017年の劇場版で大幅に出番がカットされてしまったサイボーグが活躍することが予想され、闇堕ちしたスーパーマンが多く登場し、ジャレッド・レト演じるジョーカーも確認できました。

 上映時間が4時間ということから、個々のキャラクターアークを丁寧に描く時間もあるだろうと予測されます。

 R指定なので、監督の得意とする人体破壊描写も見られるかもしれません。ワーナーとジョス・ウェドン監督が大衆娯楽化を狙ってカジュアルトーンし、フラッシュやバットマンを軽口叩きにした『ジャスティス・リーグ』とは一線を画す、『マン・オブ・スティール』や『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と統一感のある作品になっているはず。

 スナイダー監督は、これまでも大衆に媚びることなく我が道を突き進み、作品のテイストを維持するという意味ではファンを裏切ったことはありません。スナイダー監督作が好きな人は、ストーリーの完成度より、映画を美術品として愛でているのです。

 『ジャスティス・リーグ』が期待されるのは、どう転んだとしてもスナイダー監督の芸術的感情をとことん堪能できることが約束されているからではないでしょうか。

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter

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