今泉力哉監督と考える、日本映画界の現状 作家にとって理想の環境はいかにして作られる?

今泉力哉監督と考える、日本映画の今

「おんぶしてあげる側になりたい」

ーー2020年は1月17日に『mellow』が公開されて、その翌週の1月24日に『his』が公開されて、本当は5月に『街の上で』も公開されるという、上半期から相変わらずめちゃくちゃなことになってたわけですが、結局、新型コロナウイルスの影響で『街の上で』の公開が2021年の春まで延期になったと。

今泉:はい、そうですね。

ーーそして、『あの頃。』(2月19日公開)の公開も控えている。これは、パンデミックが広がる前に撮り終えられたんですか?

今泉:撮影は2020年2月。ちょうどいろんなものが止まっていく直前に撮り終えることができました。運が良かったです。

『あの頃。』(c)2020『あの頃。』製作委員会

ーーそれ以外に隠れている作品は?

今泉:あと1本撮り終えていて、それも残り1日か2日くらいの作業で完成予定です。これは本来、5月末に撮り始める予定だったんですけど、1カ月ずらして6月末から撮影して。『あの頃。』の仕上げもコロナのせいで遅れていたので、2作品の仕上げを8月9月とやっていた感じです。

ーーその作品についてはまだ発表されてないですよね。

今泉:はい。あと、それ以外にもCM案件をちょろちょろやっていて。有村架純さんと浜辺美波さんのJA共済のウェブCMとか、セブインイレブンアプリと乃木恋のコラボキャンペーンCMとか。どちらもかなり好きにやらせていただきました。

JA共済 カスミナミ #笑顔の裏ワザ

ーー有村架純さんとは、WOWOWの『有村架純の撮休』も撮られてましたよね? 今泉監督の撮ったエピソード、大好きだったんですけど。

今泉:あれの撮影は2019年でしたね。でも、そっか。あれもオンエアは2020年だから2020年の作品ということになるのか。

ーー改めて、すごいご活躍ですね。

今泉:いえいえ。

ーー今泉監督は以前、「映画を一本撮っても監督のギャラは○○○万」とかツイートしてたじゃないですか(笑)。そういう意味では、やっぱりCMはかなりギャラ的にも大きいんじゃないですか?

今泉:あの、言っときますけど、映画のギャラについて呟いてるのは俺の具体的な金額じゃないですからね。それを公言するのはルール違反なので! 一般論です、あくまで。俺はあの金額より全然もらってますから(笑)。CMもねえ、別にそうでもないんですよ。自分のところにくるような話はそこまで……。まあ、あるところにはあるんでしょうけど、大金が。でも、撮影期間や制作日数を考えたら、もちろん映画にかかる労力とは比べものにならないので、効率としてはいいんでしょうけど。

ーーなんでこんなことを訊くかっていうと、「専業の映画監督ってどうやって食ってるの?」って話になった時に、今泉監督くらいの売れっ子になってもそんなに儲からないなら、夢のない話だなって思う人も多いだろうし、何よりも「日本の映画界ってそれでいいの?」って話にもなると思うんですよ。

今泉:本当の理想論を言うなら、制作本数をちょっと減らしたいという気持ちはありますよ。年に1本か2本撮って、あとは脚本を書くことに集中したり、映画や音楽、漫画や演劇、小説、旅行や子守りなど、インプットもちゃんとするっていう。まあ、ようやく細々としたことを気にしないで普通に生活できる程度の収入にはなっていますけど。

ーーいや、そうじゃなきゃ困りますよ。これだけ本数を撮ってきて、毎作ちゃんといい作品で。

今泉:でも、お金のことをそこまで気にしなくてよくなった最大のメリットは、本来仕事としては成立しないような、でも間違いなく面白くできそうな低予算の企画に携われる余裕ができたことなんですよ。演劇を演出してみたり。『街の上で』とかもそういう一本ですね。「こういうギャラや規模だけどやっていい?」ってちゃんと事前に妻に相談して。で、そこで許されるような状況にはようやくなってきたので。そういう作品がつくれることはとても大切ですね、精神衛生上。

『街の上で』(c)『街の上で』フィルムパートナーズ

ーーなるほど。確かに、そこは重要なんでしょうね。『街の上で』も公開延期が決まる前に試写で観させていただいてますけど、もし2020年に公開されてたら2020年の日本映画のベスト1にしてました。

今泉:嬉しいです。今の自分にとって『街の上で』はひとつの指標になったような気がするんですよね。あの作品はワークショップから立ち上げた作品で、最初はもっと小さい規模感でやる予定だったんですけど。先に脚本があったわけでもなく、まだそれほど有名ではない役者の方たちを集めてワークショップ兼オーディションのようなことをして、そこから選んだ10人前後の人と、結果的にオファーという形でお声がけした、若葉(竜也)さん、穂志(もえか)さん、古川(琴音)さん、萩原(みのり)さん、中田(青渚)さんで、つくっていった映画で。オファーした5人がみんな希望通り出演してくれたのも大きかったです。自分が一番いい映画をつくれるのは、こういう環境なんだろうなと思いましたし、正直こういう体制でのみ、映画をつくれるようになっていきたいんですよね。

ーーもうちょっと具体的に言うと?

今泉:自分から見て、とても魅力的な、でもそこまで知られていない若手俳優と積極的に映画をつくっていきたいな、というか。というのも、まだこれからというキャリアの人たちは撮影期間の日程を基本的にまるっと空けてくれるんです。日本の商業映画は、俳優のスケジュールが最優先とされる場合が多いんです。忙しい有名な主演俳優のスケジュールをぬって撮影時期が設定されると、例えば、極端な話、撮影の季節を選ぶこともできない。それって、自主映画の感覚としては考えられないようなことなので。映画のためになりませんよね。実は、有名で著名な俳優の中にも、当たり前にそういう意識をもっていて理解がある人はたくさんいます。でも、事務所の考え方とか色々あると思うので。あと、一方でどうしても同じような人(有名な人)が出ている映画が多いっていうのも。これも正直、大問題ですよね。また、あの人が出てる、っていうことは映画にとってはよくないですからね。本来、俳優の匿名性って映画の魅力のひとつですから。もちろん有名な俳優ってめっちゃくちゃ芝居も魅力的です。すごいです。それはわかった上で。

 だから、数年後の自分の理想の映画づくりの環境をイメージするとしたら、スケジュールをきちんといただける、本当にこれから活躍していくような人たちと映画をつくっていきたいという、そういうことですね。それが映画にとっても一番いいことだし、そこに出てくれた俳優にとっても、それがきっかけとなってより多くの人に発見されることにもなるだろうから。有名な人の名前におんぶするんじゃなくて、おんぶしてあげる側になりたいんです。そのためにはもっともっと自分の名前と実力を上げなきゃいけないのですが。それが『街の上で』ではある程度できたんじゃないかなって。

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