宮藤官九郎が挑む新境地 『俺の家の話』は介護の現実に寄せた令和のホームドラマに

宮藤官九郎が挑む新境地『俺の家の話』

 私たちの社会は、自立した生活が送れない人を障害や要介護と認定し、福祉サービスを提供する。それは戦後の行政が築き上げたベターなシステムであり、そのシステムがしっかり機能することが社会の安定につながるのだが、認定された当人は自分を否定されたと感じることも多いだろう。その悲しみをフォローできるのは、多くの場合、共に生活することを選んだ“家族”なのではないだろうか。終盤、寿三郎が能「羽衣」の地謡を諳(そら)んじ、これは記憶しているのになぜ野菜の名前が出てこないのかと嘆いたとき、寿一が「別にいいだろ、あんた、八百屋じゃねえんだから」と言った場面がとても感動的だった。

 長瀬智也が演じる寿一は、突然、実家に戻ってきて、父親の介護に口を出す困った長男だが、心根は優しい男だ。デビュー戦でリングネームを間違われたときも、引退試合で後輩に見せ場を持って行かれたときも、相手を責めることをしなかった。だが、優しいというのは一種の能力だからその力を持って生まれた人間は、優しくない人間を理解できないこともある。だから、子供の寿一は、優しさを見せない父を許せなかったのではないか。ラストシーン近く、寿一は、寿三郎が子供の自分を風呂に入れることもオムツを換えることもしなかったことに触れ、「あんたが俺にしてくれなかったこと、全部やってやるよ」と言う。介護をする理由は「そういうもんだからだよ」と言う寿一。「そういうもんだから」というのは「家族だから」という意味であり、かつて「なぜ自分が跡継ぎなのか」と問うた少年の寿一に寿三郎が言った「そういうもんだから」は「家父長制度だから」という意味だった。古い家父長制と高齢化社会における在宅介護の間にあるものを1話で見せる。クドカン、お見事。第2話以降も何を見せてくれるのか、楽しみだ。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる