大倉忠義と広瀬アリスの“ディスコミュニケーション” 『知ってるワイフ』にみる夫婦の問題

『知ってるワイフ』から読み取る夫婦の問題

 元春もジュソクも浮気や暴力、個人的な借金があるわけでなく、スマホの待ち受けを子供たちにしているような夫であり父親だ。妻が寝室にいれば自分でご飯をチンして食べる。ただ彼らには圧倒的に足りないものがある……それは想像力。

 妻がなぜ自分に対して怒りをぶつけてくるのか、元春もジュソクもその本質を想像し、理解しようとはしない。澪やウジンの怒りの底にあるのは「もっと自分や子供たちを見てほしい。一緒に家庭を運営してほしい」という悲痛な叫びなのに。夫たちには怒る妻がただのモンスターに見えているのだ。

 感情を抑えきれなくなった澪は、元春が小遣いを貯めて買った大事なゲーム機にシャワーの水をかける。その行為に怒り狂った元春は、公園で出会った不思議な男(生瀬勝久)からもらったコインを使い、10年前にタイムスリップ。澪との出会いをスルーして、自分に想いを寄せていた大企業グループ会長の娘・沙也佳(瀧本美織)と結婚する。

 しかし、リッチなお嬢様との結婚生活にも不満をもらす元春。そこに銀行の同僚として現れる澪。明るく前向きに、そして楽しそうに仕事をこなす彼女を見て元春はようやく思い出す。「そうだ、澪はいつも笑っていた」。遅いよ、気づくのが。

 この『知ってるワイフ』ほど、男女、もしくは既婚者と単身者で捉え方が違うドラマは近年なかったように思う。澪の怒りを「わかるよ……」と共感しながら見つめるか、「こえーよ」と笑うか。これまで出たいくつかの記事に「鬼嫁」「モンスター妻」の文字が踊っているのも象徴的だ。

 過去を変え、“理想の妻”沙也佳と結婚した元春は「俺は幸せになる!」と宣言した通り、ハッピーな結婚生活を送れるのか。オリジナルの韓国版では……いや、やめておこう。これは日本で2021年を生きる私たちに突き付けられた“夫婦”の物語なのだから。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
木曜劇場『知ってるワイフ』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送 
出演:大倉忠義、広瀬アリス、松下洸平、川栄李奈、森田甘路、末澤誠也(Aぇ!group/ジャニーズJr.)、佐野ひなこ、安藤ニコ、マギー、猫背椿、おかやまはじめ、瀧本美織、生瀬勝久、片平なぎさ
脚本:橋部敦子
編成企画:狩野雄太
プロデュース:貸川聡子
演出:土方政人、山内大典、木村真人
音楽:河野伸
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ
(c)フジテレビ

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